訪日客らが集中する都心部で大規模災害が発生した際、交通機関がストップして家に帰れない人の急増が懸念されている。歌舞伎座(東京都中央区)で28日、物流大手も参加して帰宅困難者の受け入れ訓練があった。
中央区は銀座や築地、日本橋といった観光地やビジネス街が集積し、帰宅困難者の発生が確実視されている。歌舞伎座は大規模災害時に帰宅困難者の一時滞在施設になっており、観劇客を含め3000人分の食料や毛布を備蓄している。
訓練には外国人や企業関係者、歌舞伎座のスタッフらが参加。館内の案内は日本語と英語で行われ、滞在者の登録など受け入れ作業の流れを確認した。歌舞伎座の横山晴久事業部長は「普段から外国語対応の表示が必要と感じた。海外旅行者をサポートできる体制を整えたい」と話し、80以上の言語に対応した通訳機を全館に配備するという。
物流最大手アマゾンジャパンも支援物資の搬送・受け入れ訓練に参加した。兵庫、神奈川の両県に災害支援物資の保管拠点があり、能登半島地震では約10万点を発送した。この日は帰宅困難者に配布する簡易トイレや除菌シートなど3000人分を歌舞伎座に運び入れた。中央区の菅沼雅広・防災危機管理課長は「災害時には物流が重要。区にはないノウハウを訓練できた」と述べた。
訪日客らの増加を背景に、政府は7月に大規模地震の際の帰宅困難者対策のガイドラインを一部改定した。2011年の東日本大震災で約515万人(推計)の帰宅困難者が首都圏で発生したことを踏まえ、15年に策定されたもので改定は今回が初めて。
帰宅再開時に駅などに人が殺到するのを防ぐための指針が新たに加わった。マグニチュード7以上の地震が日中に発生すると、鉄道などインフラの復旧に3日はかかるため、帰宅は発生から原則4日目以降となる。混雑防止のため、新たなガイドラインでは帰宅時間をずらすよう呼びかけ、普段から予備の電源や食料を持ち歩くことも推奨する。
首都直下型地震では650万人の帰宅困難者の発生が予想され、課題は多い。
東京都は条例で事業者に対し、従業員の3日分の飲料水と食料を備蓄するよう努力義務を課している。しかし、東京商工会議所が会員企業に対して6月に行ったアンケート(約1100社が回答)では、実際に備蓄する企業は約5割にとどまった。外部の帰宅困難者を受け入れると答えた企業は約2割だった。企業からは「オフィスビルに入居しており、ビル全体で協力できる体制があればと思う」といった声が寄せられた。
中央区の菅沼氏は「都心部は建物が密集し、(物資の)備蓄場所が狭い」と指摘。「安全に過ごせる場所を周知するほか、今回のように企業同士が結びつき、助け合うネットワークを広げたい」と話した。【藤渕志保】
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。