KKT6代表の箱田素子さん(左)らの指導を受け、真剣に栗をむく受講者たち=茨城県笠間市中央3の友部公民館で2024年7月25日午前10時31分、鈴木敬子撮影

 栗の一大産地の茨城県笠間市で、市や加工業者が栗のむき手の育成を強化している。栗は機械でむくと小さくなり整形も難しいが、高齢化に伴い、「むき子さん」と呼ばれる手むきの技術を持つ人たちが減少している。きれいに手むきされた栗は甘露煮や渋皮煮などに使われ需要が高く、担い手の確保と地域における「栗むき文化」の継承が課題となっている。

 熟練者だと、1時間に30~40個ほどむけるというむき子さん。ただ同市ではここ数年、深刻なむき手不足に直面してきた。そこでむき栗を安定的に供給できるよう、市や加工業者などでつくる「儲(もう)かる笠間の栗産地づくり協議会」が2022年から養成講座を開催。23年は無料で開き、家庭でむきたい人も含めて70人以上が受講し、うち7人が市内の加工業者などで働いた。今年は技術職として対価を得たい人の個別指導に力を入れようと、定員を20人に絞って有料とし、回数も2回から3回に増やした。

 7月25日に友部公民館で行われた初回の講座では、栗生産者の女性6人でつくる「KKT6(かさまの栗つたえ隊)」代表の箱田素子さん(70)らが講師となり、栗むき用包丁などを用いて鬼皮と渋皮のむき方を指導。受講者18人はけがに細心の注意を払いながら、真剣に取り組んだ。参加した市内の生産者の女性(65)は「指にも負担がかからない正しいむき方を学び、むいて加工業者に持っていけるようになれたらいい」と話した。

 養成講座では、むき手を募集している事業者も紹介し、技術を雇用に結びつけている。

 紹介先の一つ、栗の加工・製造や販売を行う「小田喜(おだき)商店」(笠間市吉岡)では7月下旬、石田啓一社長(46)が今シーズンのむき手の確保に奔走していた。

「小田喜商店」の石田啓一社長=茨城県笠間市吉岡で2024年7月30日午後5時36分、鈴木敬子撮影

 同社は1960年の創業時から手むきの栗のみを採用。同社によると、かつては主に農家の女性が内職で栗の皮むきを担っていた。割れるなどして皮付きでは出荷できない栗も、むけば業者に高く買ってもらえるため、皮むきも地場産業として根付き、全国的に見ても多くのむき手が集まったとみられる。

 しかし高齢化に伴い、最盛期の70年代には1000~2000人いた同社と関わりのあるむき子さんが、現在では10分の1にまで減少。その主力は70代以上だという。

 石田社長は「むき子さんを千人規模まで増やせなくても、地域の文化を何とか残していきたい」と話す。若い世代にも担い手を広げようと、23年12月、近隣の市立小学校3校の保護者を対象にアンケート調査を実施。むき手として活動することへの興味や、どのような働き方なら担えるかを尋ねた。約100人の回答から、挑戦したいと思っている人は多かった半面、専業とするより1~2時間の空き時間で従事したいと考えている人が目立った。

 そこで、石田社長は手元にスマートフォンを置き手軽に栗むきができるよう、むき方などを分かりやすくまとめた3本の動画を作成し、ユーチューブ(https://www.youtube.com/watch?v=01qgLVd4SQM)で公開した。「きれいに手むきされた栗はよりおいしい。若い人には新鮮に感じてもらえるのではないか」と期待を寄せている。【鈴木敬子】

「儲かる笠間の栗産地づくり協議会」が伝える栗のむき方

①皮を軟らかくするため、水を張ったボウルに栗を30分~一晩ほど浸す。

②硬い鬼皮には包丁を使う。座(底の部分)と皮の境目に包丁の刃を食い込ませ、少しめくれた鬼皮を包丁と親指ではさみ、一気にむしり取るようにはがす。最後に座を切り落とす。

③栗むき用包丁で渋皮を側面からむく。側面は頭から一周するようにむき、残った二つの比較的平らで大きな面は、頭から座に向かって、それぞれ数回に分けてむく。栗の丸みに沿うようにむくと良い。

④むき終わった栗は濁りがなくなるまで流水で洗い、水を張ったボウルに2~3時間漬けてあく抜きする。

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