東京都心がゲリラ豪雨に見舞われた21日夜、都営地下鉄で35年ぶり、東京メトロで20年ぶりに駅構内が浸水した。「想像を超える雨量」で、従来の浸水対策が時間的に間に合わなかったためだ。台風10号による影響が懸念される中、当日に何が起きたのかを改めて取材した。
水圧で止水板の扉開かず
気象庁は21日午後7時、港区付近で1時間に100ミリの雨を観測したとして、記録的短時間大雨情報を出した。
東京メトロ南北線と有楽町線が乗り入れる市ケ谷駅(千代田区、新宿区)では、6番出入り口から大量の雨水が流れ込み構内が浸水した。この日、乗り換えで同駅を利用した40代の男性会社員は「改札に来たら膝くらいの高さまで浸水していた。あり得ない光景に恐怖を覚え、急いで高いところに移動した」と振り返る。
東京メトロによると、駅員が6番出入り口の地上部分に水の流入を防ぐ「止水板」を設置しようとしたところ、止水板を格納する設備の扉が水圧で開かなかった。
そこで、本来は利用客を入れないようにするためのシャッターを閉めたが、こちらも水圧で破損。最後の手段として土のうを積んだものの、浸水を止められなかったという。
同社の広報担当者は「ゲリラ豪雨で想像を超える雨量があり、周囲より低い位置にある出入り口から水が流れ込んだ」と話す。
東京メトロの駅では、2004年10月以来20年ぶりの被害となった。前回は台風22号に伴う雨で南北線麻布十番駅(港区)が浸水した。
同社ではこれまで、浸水の恐れがある駅については出入り口を歩道より高くしたり、出入り口全体を閉鎖できる「防水扉」を整備したりするなどの対策を進めてきたが、今回は浸水を食い止めることはできなかった。
市ケ谷駅の浸水を受け、同社は取材に「今回の事案を全駅に共有し、集中豪雨による被害が近年増大している状況を踏まえて大雨警報発令に伴う取り扱いに特段の注意を図るよう再徹底した」と回答。具体的には、駅事務室のセキュリティーカメラや巡回で監視体制を強化し、よりきめ細かに降雨の状況を確認すると説明した。
止水板を格納する設備の扉が開かないという新たな問題については、「仕様変更を検討する」としている。
迅速に対応しないと間に合わない
21日は都営大江戸線国立競技場駅(渋谷区)構内にも雨水が流れ込み、エスカレーターが故障するなどした。駅員が複数の出入り口に止水板を設置したが、一部で間に合わなかったという。
都交通局によると、都営地下鉄の駅の本格的な浸水は1989年8月以来35年ぶり。前回は集中豪雨により浅草線五反田駅(品川区)が被害に遭った。
同局では地下鉄駅で止水板などによる対策を強化することなどを盛り込んだ「浸水対策施設整備計画」を23年2月に策定したばかり。萩原健・安全対策推進課長は「最近の豪雨は範囲が限定的で、降り始めから非常に短い時間で水が流れ込んでくることがある。迅速に対応できなければ間に合わない」と危機感を募らせる。
浸水に遭遇したら駅員の指示に従って
一方、都交通局と東京メトロは利用客が浸水に遭遇した場合は落ち着いて駅員の指示に従うよう呼び掛けている。
萩原課長は「異常発生時の対応について、駅員はマニュアルに従って訓練を積んでいる。浸水の場合は高いところなどより安全な場所に誘導する。もしもの時は慌てずに駅員の指示に従ってほしい」と話している。【平塚雄太】
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