文部科学省の特別支援学級に関する通知を受け、記者会見に臨む保護者(左)や弁護士(中央)ら=3月26日、大阪市内

特別支援学級に在籍する子供は半分以上の授業を特別支援学級で学ぶこと-。文部科学省の通知が学校現場や保護者に波紋を広げている。大阪をはじめ、一部の自治体では障害があっても多くの時間を通常学級で学べるよう工夫を凝らしてきたが、これに逆行しかねないからだ。突然の通知に保護者は「障害者の分離にあたる」と困惑。大阪弁護士会が今年に入り、人権侵害の恐れがあるとして通知の撤回を国に勧告する事態になっている。

支援学級は増加傾向

「『交流』の側面のみに重点を置いて共同学習を実施することは適切ではない」

文科省は令和4年4月、各教育委員会に通知を交付し、特別支援学級の子供は授業時間の「半分以上」を特別支援学級で過ごすよう求めた。

なぜこのような通知を出したのか。少子化が進む一方で、特別支援学級の在籍者は増加傾向にあり、5年度は37・3万人で、10年前から倍増した。

一部の自治体を対象に実態調査した結果、小中学校のおよそ半数で、特別支援学級の子供が授業時間の半分以上を通常学級で過ごしており、中には支援のための特別な教育課程を編成しているのに、十分に生かされていないケースもあった。

支援が必要な子供に対しては、特別支援学級ではなく、通常学級に在籍した上で一部の授業だけ別室で受ける「通級」という制度もある。文科省の通知では、この通級も選択肢とするよう提示した。

「分離教育の促進」と批判

この通知に驚いたのが、障害の有無にかかわらず通常学級で一緒に学ぶ取り組みを重視してきた大阪府内の自治体や、特別支援学級に通う子供を持つ保護者だ。

「障害のある子とない子がお互いを知る機会が奪われる」

3月末、特別支援学級に在籍する子供を持つ保護者は会見を開き、不安と憤りをあらわにした。

この保護者らから人権救済の申し立てを受けた大阪弁護士会は同月、通知の授業時間に関する部分の撤回を国に勧告。「『半分以上』で分けるのは分離教育の促進にほかならない」と批判した。

大阪では「ともに学び、ともに育つ」との方針で、ほとんどの小中学校が特別支援学級を設置。枚方市では、特別支援学級で過ごす時間は多くが1日1時間程度で、それ以外は通常学級で過ごす。

特別支援学級の担任が子供の横で付き添うものの、複数の子供を同時には対応できないため、通常学級の担任がサポートすることもあった。

枚方市の担当者は、文科省の通知を受け、「それぞれの生徒にあった丁寧な対応が本当にできていたのかや、生徒が指導内容をしっかりと理解していたかを確認する必要がある」と説明。特別支援学級での時間を増やしてほしいとの保護者の声もあるといい、専門家による審議会の結果を踏まえ、今後の方針を決めるという。

約50年前から支援教育に力を入れてきた豊中市は、1日中通常学級で過ごすケースもあった。その効果について、担当者は「子供たちの中でクラスメートという意識が高まり、友人の中で自立の力が養われる」と強調。「通知は重く受け止める。今後も変わらず丁寧な支援教育を実施していく」と述べた。

特別支援教育に詳しい大阪大谷大の小田浩伸教授は「インクルーシブ教育は可能な限り同じ場で学ぶことを追求すること、個々の教育的ニーズに最も的確に応える指導を提供できる仕組みを整備すること、この両輪の上に成り立ち、今はそのシステムの構築時期。大阪も国も目指す方向は同じ」と指摘。文科省の通知については「大阪の良さを変えようとするものとは考えていない。一度立ち止まってそれぞれの子に本当に適切な学びの場がどこなのかを見直す機会とすべきだ」と話した。(地主明世)

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