開湯1700年の歴史を持つ梅ケ島温泉(静岡市葵区)でこの夏、温泉水を活用してコーヒーを有機栽培する取り組みが始まった。栽培に適した昼夜の寒暖差を生かしつつ、冬季は温泉水でハウス内を暖める。日本では手に入りにくい生のコーヒーチェリーの果皮や果肉を使ったスイーツ・食品作りも目指す。苗木1本からの実験的スタートだが、ブランド名はもう決まっている。「梅」と「島」を意味する「プラムアイランドコーヒー」だ。
コーヒー栽培に挑戦するのは、梅ケ島地区で2018年から紅茶やチャイの製造販売、体験イベントなどを手がけている「梅ケ島くらぶ」だ。代表の辻美陽子さん(63)が、耕作放棄された茶畑の再活用や「オクシズ」観光の魅力向上につなげようと、創設当時から構想を膨らませてきた。国内の高地や寒冷地での本格的なコーヒー栽培は例がないといい、静岡大農学部が共同研究や技術指導で協力する。
プロジェクトは、準備段階として今年1月から1本の苗とミニハウスで越冬実験を実施した。外気温がマイナス10度近くになる冬でも温泉水の熱でハウスを保温できることを確かめた。本格的スタートとなるこの夏、まずは標高約650メートルの安倍川上流部の谷あいに、大小6本のコーヒーの木を育てる専用ハウスを建設。栽培地には温泉水を引き込み、ラジエーターの仕組みでハウス内を適温に保つ手作りの温暖システムが配備される。
本格的な収穫はまだ先だが、「プラムアイランドコーヒー」の味を確立させるため、栽培するコーヒーに近い豆(アラビカ種)での実験にも近く着手する。梅ケ島の水と南アルプスの水でいれたコーヒーの比較や、焙煎(ばいせん)の方法・度合い、豆の発酵方法などを組み合わせ、条件を変えながら目標の「香り高く際立った風味」を追求する。味を決めていく際には地域住民にも参加してもらう予定だという。
梅ケ島くらぶのコーヒー担当、土屋宏斗さん(23)=静岡大大学院=は「三つの種類の湯が湧く梅ケ島の温泉水でもコーヒーをいれてみる。硫黄の香りがいいアクセントになる可能性もある」と抱負を語る。
事業規模の拡大に向け、今後はクラウドファンディングやコーヒーの木のオーナー制度創設も検討する。辻代表は「お茶、紅茶、チャイ、そしてコーヒーが加われば、『一つのエリアでさまざまな嗜好(しこう)飲料を楽しめる梅ケ島』になる。大切な駿河湾に注ぐ安倍川の上流なので、有機栽培にもこだわっていきたい」と話す。
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プロジェクトのスタートに合わせ、「プラムアイランドコーヒー・キックオフイベント」が26日午前11時から葵区平野の古民家カフェ「オクシズベース」で開かれる。事業説明や交流会がある。一般参加無料、昼食会参加は1500円。問い合わせは土屋さん(090・5000・8461)へ。【丹野恒一】
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