小学生対象の軟式野球チームの代表を務める東京都練馬区の会社員、中桐悟さん(40)。彼が掲げるのは「罵声、高圧的な指導の完全禁止」だ。
中桐さんは2021年、「練馬アークス・ジュニア・ベースボールクラブ」を設立。「子どもたちに自分と同じ経験はさせたくない」という思いからだった。
中学時代に所属していた野球部の監督から発せられた一言は、今も脳裏に焼き付いている。
「お前は性格が曲がっているから、送球も曲がるんだ――」
三重県の過疎地で生まれ育ち、幼い頃から野球のテレビ中継を見るのが大好きだった。地元には小学生の野球チームがなく、中学で念願の野球部に入った。
だが、厳しい指導が待っていた。「下手くそ」「帰れ」といった罵声は日常茶飯事。試合中、チャンスで三振すると、「ケツバット」や殴られることも。「俺がいいと言うまで走れ」と炎天下のグラウンドを走らされ、熱中症になる部員もいた。中学2年になるとストレスから体調を崩し、その後は野球から離れた。
それから20年余。3児の父になり、長男から「野球をやりたい」と言われ、チームを探した。だが、監督が一方的に子どもをしかるなど、旧態依然の指導が行われていることに驚いた。試合会場までの送迎や、お茶出し当番など保護者の負担も大きく、時代に合っていないと感じた。自分でチームを作ろうと決断した。
「罵声や高圧的な指導を完全禁止」のほか、野球を「楽しむ」▽活動は休んでも構わない――など九つの約束を掲げる。定員を30人から40人に増やしたが、それを上回る需要があり、現在40人以上の児童を受け入れている。
「甲子園やプロを目指す厳しいチームがあってもいいが、楽しく気軽に野球ができる受け皿が必要」と言う中桐さん。「大谷(翔平)選手に憧れても『野球は見るだけにしてテニススクールに行きなさい』という保護者はたくさんいるが、子どもが野球を始めることに覚悟は必要ない。社会全体がそうなると、野球の未来は明るいと思います」
スポーツ現場でのハラスメントは過去最多
日本スポーツ協会によると、スポーツ現場でのハラスメントに関する相談件数は23年度485件と過去最多。13年に相談窓口を開設して以降、新型コロナウイルスの感染拡大により一時減少したものの再び増加に転じている。被害者の内訳は小学生が最多の4割で、暴言による相談が年々増えている。【酒井志帆】
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