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 世界を驚愕させた、バングラデシュのハシナ首相の国外脱出。15年続いた長期政権が、突然終わりを迎えることとなった。

【映像】燃やされた車に、破壊されたビル…“Z世代”によるデモの様子

 国を変えたのはZ世代によるデモがきっかけだった。彼らが反発したのは1971年の独立戦争の兵士の子孫に公務員の特別採用枠を割り当てるという制度。2018年に政府はこの特別枠の廃止を決めたが、今年6月、高等裁判所がこれを覆す判断を出したことで、不平等だと、学生らによる大規模な抗議デモが勃発。その後、特別枠を縮小する決定がされたが、デモの一部が暴徒化。過激化した背景には、7月に政権側の警察や特殊部隊が学生を銃撃するなど、暴力的にデモに応じたことが関係しているとの見方もある。ハシナ首相が国外脱出したことで、事態は一旦落ち着いたと伝えられる中、学生は「政権の崩壊を誰もが歓喜し、祝福している。歴史に残る1日になる」と訴えた。(ダッカ・5日)

 首相を国外脱出に追い込み、次の政権を決める選挙を実施するまで、暫定政権の最高顧問に選ばれたのは、かつてノーベル平和賞に選ばれたユヌス氏。顧問13人のうち2人は学生リーダーで、ユヌス氏も「学生たちがどんな道を示してもそれに従って前進する」と述べている。長期政権を終わらせた「Z世代の革命」。果たしてこの先、どう国の舵取りをしていくのか。バングラデシュの今とこれからを『ABEMA Prime』で考えた。

■バングラデシュ人民共和国「中国に次ぐ世界第2位のアパレルの輸出国」

 バングラデシュ人民共和国は、面積約14.7万km(日本の約4割)、人口約1.7億人
(イスラム教徒約9割)、主要産業は衣料・縫製品、農業。立教大学准教授の日下部尚徳氏は「シンガポールのような都市国家を除けば、世界で最も人口密度が高い国。この人口の多さが、これが貧困の温床なのではないかと言われた時期もあるが、現在はこの人口の多さが非常に強い経済を牽引している」と説明した。

 バングラデシュの経済(23年度)は、経済成長率6.0%。名目GDPは446.3億ドルで、189カ国で世界33位でフィリピン、マレーシアを上回っている。インフレ率は9.3%で、アジアの新興・途上国平均の4倍近くある。

 日下部氏は「そもそもバングラデシュのGDPの10%近くが、出稼ぎ労働か、海外送金で成り立っている。どんどん優秀な人材を外に出して、そこから外貨を得る政策をとっている」とコメント。

 さらに「ハシナ首相の時期が高度成長期にあったのは間違いない。2000年代に入ってから、非常に高い経済成長率を誇っている。私たちの服、縫製業で経済が伸びている。それは90年代から徐々に外国の縫製工場が入ってきて、今や中国に次ぐ世界第2位のアパレルの輸出国になっている」と述べた。

■デモを主導したのがZ世代、20代が中心「わずか1カ月で、首相が国外に行かなければならない状況になったのはSNSの力」

 そんなバングラデシュで先月、公務員採用の特別枠めぐる抗議デモが発生。抗議学生と治安部隊が衝突し、約150人死亡。今月に入り、大規模反政府デモで、約100人が死亡した(5日まで)。5日にハシナ首相は辞任し、ヘリでインドへ脱出した。

 日下部氏は、今回の騒動について「最初は平和裏に始まった運動だったが、警察が学生を殺害する映像が全国に流れてしまった。それで一気に、公務員改革を求める運動だったものが、バングラデシュ全土で“正義を求める運動”に拡大していった背景があると思う」との見方を示す。

 また、「(ハシナ氏が)長期政権化していたこともあるが、言論の抑圧・弾圧、貧富の差の拡大など、やはり社会に不満を持つ人たちは一定層いた。そういった人たちの声を、ある意味でハシナ政権は押さえ込んでいた。それが学生運動をきっかけに、一気に噴出する状態になったのではないか」と続ける。

 実態は暴力革命になってしまったのか。日下部氏は「そもそも2018年に同じように平和裏に公務員改革を求める運動があった。それは平和裏に、ある意味でハシナ首相が受け入れる形になった。今回も収束していくと思ったが、メンバーの一人が殺害され、さらにもっと多くの人が殺されていることがSNSを通じて拡大することによって、両者がエスカレートしていったと思う」と答えた。

 首都ダッカ在住で、「KOLPONA」代表、現地の私立大学で非常勤講師をしている田中志歩氏は、学生について、「最初は自分の勤めている学生はデモに参加していなかったが、メンバーの一人が亡くなってしまったことから、私立の大学生の子たちも活動に本格的に参加するようになった」といい、「最初は衝突に怯えるような子たちもいたが、現状を変えたいという言動に変わっていったように感じる」と振り返る。

 デモを主導したのがZ世代、20代が中心で、SNSで広まったことに対して、日下部氏は「わずか1カ月で、首相が国外に行かなければならない状況になったのはSNSの力。だからこそハシナ政権は今回インターネットを一時全部止めた。これはバングラデシュでは初めてだと思うが、こういった強硬手段を取らないといけない状況になったんだと思う」との考えを述べた。

■暫定政権の顧問13人のうち、2人を学生に

 暫定政権の最高顧問に就任したユヌス氏は、学生のデモ隊が国を救ったとし「学生たちがどんな道を示してもそれに従って前進する」と表明。暫定政権の顧問13人のうち2人は学生リーダーが参加した。

 日下部氏は、この出来事について「非常に驚いた。ユヌス博士をトップにするという、学生の要求を軍が飲むのもかなり驚きだった」といい、「ユヌス博士はある意味で国際的に最も知名度の高い、バングラデシュ人だと思う。欧米との関係も極めて深い。ユヌス博士を推薦したのは、新しいバングラデシュを作っていきたいという、学生の強いメッセージを感じる」。

 さらに「政治経験が非常に少ない人たちがメンバーに入っている。若い人たちが入ってきて、新しいことをやりたいという人たちが入ってきた時、行政機関の人たちがどのようにサポートをしていくのか。こういう運動を潰さずに支えて新しいバングラデシュを作っていけるのか、非常に期待している」と述べた。

(『ABEMA Prime』より)

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