盗まれた純金製の抹茶茶碗(警視庁提供)
堀江大容疑者

東京都中央区の日本橋高島屋で開かれた金製品の展示即売会「大黄金展」で、営業中の会場から白昼堂々と純金製の茶碗(ちゃわん)が盗まれた事件。追跡の末に確保された男は、「盗んだ茶碗でお茶を飲みたかった」と口にしたという。犯人は逮捕されたものの、犯行時の服装で繁華街を徘徊(はいかい)するなど男の不可解な行動や、転売が繰り返された茶碗の行方など、未解決の問題が残されている。

11日正午過ぎ、日本橋高島屋8階催事場で、クリアケースの中にあるはずの「抹茶茶碗」(販売価格約1040万6千円)が忽然(こつぜん)と消えていることにスタッフが気づいた。

防犯カメラには発見の約20分前、眼鏡をかけた男が片手でケースを持ち上げ、茶碗を軽々と持参したリュックサックに詰め込む様子が写っていた。警視庁に110番通報が入ったのは午後0時16分。男が高島屋を後にしたのは、そのわずか9分前だった。

財布に現金130万円

事件から2日後の13日午前10時前。東京メトロ木場駅近くで、警視庁捜査3課の捜査員がある男に目を付けた。

グレーのトレーナーにグレーのリュックサック。ズボン以外は追っている容疑者に似ている。捜査員は尾行を開始した。

男はタクシーに乗り、東京駅近くで降車。ICカードを使って東京メトロで池袋駅と往復し、電車を降りては商業施設を出入りすることを繰り返していた。

発見から約4時間半後、捜査員は男に声をかけた。財布にあったのは現金約130万円。当初はぐらかそうとしていた男が関与を認めるまでそう長くはかからなかった。

「盗んだ茶碗でお茶を飲みたかった…」

男は堀江大容疑者(32)。窃盗容疑で逮捕された。

たまたま目にとまった

純金茶碗が展示販売されていた「大黄金展」を開催した日本橋高島屋=11日午後、東京都中央区

堀江容疑者は無職。ユーチューブで自らを「イケメン」と称し、散歩の途中に撮影したとみられる「自撮り」動画も配信していた。

本人の供述によると、事件当日もいつものようにお気に入りの日本橋を散歩。たまたま「大黄金展」の看板を見つけ、会場に足を踏み入れて目にとまったのが、盗まれた茶碗だった。

「ケースを動かせばとれるかもしれない」。鍵や警報器はなく、簡単に持ち上がった。堀江容疑者はそのまま、ICカードを使って東京メトロに乗り込んで逃走した。

少額ながら借金もあった容疑者。犯行の帰路、スマートフォンでめぼしい買い取り店を調べ、最寄りの木場駅で降りて向かった。「本人はああ言っていたが、お茶は飲んでいないんじゃないか」(捜査関係者)。約180万円で買い取られた茶碗は、その日のうちに足立区内の別の買い取り店に約480万円で転売された。

押収した茶碗の行方は…

捜査3課が押収した茶碗の行方はどうなるのか。捜査幹部は「大黄金展の運営会社や買い取り店の当事者間の協議で決まる。警察から要請はできない」と語る。

見えないのは、茶碗の行き先だけではない。約1千万円という被害の大きさに比べて、堀江容疑者の手口は、逃走時に身元をたどれるICカードを使って電車に乗る、事件当時と同じ服で出歩く―など稚拙さが目立つ。

捜査関係者は「本人がどういう感覚なのかわからない…」と首をひねる。容疑者が逮捕されても、一件落着とは言いがたい状況のようだ。

(内田優作)

背景に金相場の高騰も

今回の事件の背景には、金相場高騰の影響もあるかもしれない。企業の経営破綻などの影響を受けにくいことから「安全資産」とも呼ばれる金。地金大手の田中貴金属工業が公表している日次金価格推移によると、17日の店頭販売価格は前日に比べて36円高い1グラムあたり1万3099円(税込み)となり、過去最高値を更新するなど価格上昇が続いている。

高騰の背景には、イスラエルとイランの対立激化など地政学的な緊張の高まりが影響しているとみられる。当面高値が続くとの見方も金を買う動きを促しているようだ。

この1年間の販売価格(税抜き)の推移をみても高騰は著しい。昨年3月は1グラムあたり8249円(平均値)だったが、今年3月には1万428円(同)と1・2倍以上に値上がりしている。

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