能登半島地震発生後初めてのお盆を迎える。墓の修復に関し、業者の手が回らず、順番待ちのまま伝統的な慰霊の時期を迎えた被災者も多い。先祖や身近な故人をどう弔うか、心中で何を報告するか、悩みは深い。さらに課題もある。住家の公費解体はようやく進み始めたが、多くの住家で「最大の家具」だった仏壇をどうするかだ。【竹中拓実】
曹洞宗大本山・総持寺祖院など歴史的名刹(めいさつ)の多い石川県輪島市門前町。町内の専徳寺は、地震で本堂が倒壊し、クラウドファンディングで再建資金を募る。
15日は通常の仏事に加え、先祖や地震の死者の鎮魂と復興祈願のため、寺の境内に千本のろうそくをともす。山門前に焼香台も設け、檀家(だんか)だけでなく地域住民の参列も歓迎する。
併せて行うのが、仏壇・仏具に関する相談会だ。金沢市の仏壇店の専門家を招く。
吉岡聡住職(61)は4月から毎月、持ち込まれた仏壇・仏具を供養する「お焚(た)き上げ」を行ってきた。「どうしたら良いのか。ごみとして出すのはしのびない」という被災者の深刻な悩みに寄り添うためだ。
檀家かどうかや、宗派などにはこだわらない。今も居宅部分の玄関に「燃える仏具」「燃えない仏具」との張り紙を掲示し、持ち込みを受け付けている。「寺の役割とは何か」を考えつつ、今後も活動していくという。
能登は信仰心の厚い地域とされる。装飾性豊かな七尾仏壇が伝統産業になってきた。多くの民家に仏間(ぶつま)と呼ばれる部屋があり、仏壇を置いていた。地震後、多くの仏壇店が被災者の依頼で回収・保管に当たったが、応じきれないのが現状という。
県内で3店舗を運営する宮本仏壇店(本店・羽咋市)は地震発生後、正月休みを切り上げて電話応対を始めたが、依頼が途切れない状態となった。仏壇は1~2人では持ち上げるのも難しく、回収は4人掛かり。道路事情が悪い中、能登半島先端まで行き来しても、保管場所を確保できなくなっていった。
本店の高畠花恵さん(40)は「一番多い相談は処分して良いのかという気持ちの話。少し落ち着いていたのが、お盆前にまた増えた」と語る。ただ廃棄するだけでなく、仮設住宅などに置ける小型の仏壇を買う50代くらいの客も多いという。
一般的に仏壇は廃棄される場合、粗大ごみに分類される。金沢市の場合、大きさ2メートル、重さ55キロ以上は回収対象外で、専門業者への依頼を求めている。能登では、これを超えるサイズも多い。壊れかけた家屋で個人が分解するのは困難で、細かく組み合わされた金属と木材の分別にも無理がある。
実家の仏壇の処分に悩む人も多い。菩提(ぼだい)寺との付き合いが無くなった中、どこに相談すれば良いのか。仏壇・仏具を取り扱う「全日本宗教用具協同組合」(東京都)はホームページで、幅広く相談に応じる「仏事コーディネーター」が所属する店舗などを紹介している。
同組合理事長で、金沢市の池田大佛堂会長の池田典明さん(74)は「今後どうするか、まだ考えられない被災者も多い。供養した後の処理を進めるには、県境を越えた活動ができるよう廃棄物関係の制度も変える必要がある」と指摘している。
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