南海トラフ巨大地震について、国が東海沖から九州沖にかけての地域をひとまとめの震源域と捉えて対応するようになったのは、2011年の東日本大震災以降だ。
それまでは、静岡県内陸部から駿河湾を震源域とする「東海」▽静岡県の遠州灘から和歌山県の紀伊半島沖を震源域とする「東南海」▽紀伊半島から四国沖を震源域とする「南海」――という三つの領域で起きる地震として発生確率や被害想定、防災対策を示してきた。
東日本大震災は「宮城県沖」「福島県沖」などと細分化していた東北太平洋側の日本海溝沿いにある複数の領域が連動し、想定外だったマグニチュード(M)9・0の大地震となり、広範囲にわたる津波が発生した。このため、国は「最大級の地震と津波」への対策を講じる方向にかじを切り、複数の領域が連動する状況を想定した。
政府の地震調査委員会は東海、東南海、南海の3領域に、宮崎県沖の日向灘などを加えた領域を南海トラフ巨大地震の想定震源域と位置づけた。
国は長年にわたり、南海トラフに関係する三つの地震のうち東海地震について、発生場所や時期を把握して「大地震が発生する恐れがある」と宣言する「予知」によって被害の軽減を目指してきた。
きっかけは1976年、国土地理院から委嘱された地震学者による「地震予知連絡会」で、大地震の発生が切迫しているとする「東海地震説」が打ち出されたことだ。
78年には、東海地震の予知の体制などを定めた「大規模地震対策特措法」が成立。79年には、東海地震の発生可能性を検討する「判定会」が気象庁に設置され、前兆とされる地殻変動を捉えるため、ひずみ計を使った観測に力を入れるようになった。
だが、東日本大震災をきっかけに、予知に重点を置く方針は撤回されることとなった。
震災の発生2日前に三陸沖で発生した前震にあたる地震を、専門家らが震災の前兆と捉えられなかったためだ。政府の中央防災会議に設けられた有識者検討会は17年、「現在の科学技術では確度の高い地震の予測はできない」と結論づけた。
これを受け、気象庁は同年、東海地震の予知情報を出す体制をやめ、南海トラフで大地震につながる恐れがある現象が観測された際に発表する「臨時情報」の運用をスタートさせた。【島袋太輔、安藤いく子】
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