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 広島に原爆が投下されて、6日で79年となる。「原爆の怖さを日常の中で感じてほしい」と、学生団体が渋谷で核攻撃を疑似体験する企画を立ち上げた。この企画に込められた思いとは…。

■企画考案は被爆者の孫 “核攻撃”疑似体験

AR(拡張現実) この記事の写真

 「もし、多くの人が行き交う渋谷の街に原爆が投下されたら?」。そんな想定を、スマートフォンで疑似体験できるコンテンツが今月1日に公開された。

 AR(拡張現実)の技術を使い、特定の位置からカメラをかざすことで、実際の街並みにリアルなきのこ雲が浮かび上がる仕組みとなっている。

被爆者の孫が企画

 このコンテンツを考案したのが、大学4年生で「KNOW NUKES TOKYO」代表の中村涼香さん(24)。原爆は広島でおよそ14万人、長崎でおよそ7万4000人の命を奪った。中村さんは長崎市出身で、祖母が被爆を経験している。

中村さん
(オーストリア・ウィーン 2022年6月)
「祖母にとって被爆の記憶は、今も思い出したくない恐ろしいものなのだと思います」 東京大学大学院・渡邉英徳教授が監修

 中村さんは、なぜこのコンテンツを考案したのか。

中村さん
「自分たちが日常の中ですごく目にしている景色をバックに、核兵器を象徴するようなきのこ雲が映ると、すごく異様な景色なので、何かしら考える機会になるかなと思って」

 夏休みなどを利用して「渋谷を訪れる若者に核の怖さを知ってもらおう」という狙いだ。実際、街の若者にはどう映ったのか。

10代
「(Q.(かなり大きいですよね?)大きいです」
「(Q.現実世界で、きのこ雲が現れるのはどう?)めっちゃ怖いです」 20代
「(Q.きのこ雲を見てどう思う?)信じられないですね」
「(Q.ARで現れるとどう?)普段全く考えない分、改めてこれを機に考えようかなという気持ちになる」

 今回、プロのデザイナーや大学教授など様々な人に協力を仰ぎながら、コンテンツ制作にあたった中村さん。東京大学大学院・情報学環の渡邉英徳教授は今回、デジタル技術の監修を行った。渡邉教授も戦争の記憶を伝えていく研究をしている。

渡邉教授
「色々な人々の関心を呼び起こして、議論が生まれているという意味では、大変成功しているんじゃないでしょうか。今回、最初の制作から中村さんたち(若者)が主体的にやれたところが喜びではある」 核廃絶への活動

 これまでも核廃絶に向けて様々な形で訴えてきた中村さん。学生団体の代表として活動を続けているが、この9月に大学を卒業する。

中村さん
「(Q.今後の展望は?)私自身、大学卒業後も続けたいということで、活動を継続している。広島・長崎に限らず、色々なところで、核の問題について考えられるような場所とか、きっかけをたくさん作りたい」

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■薄れゆく…大切な被爆体験の継承

■薄れゆく…大切な被爆体験の継承

薄れゆく被爆体験

 今回、取材した中村さんたちが行っている取り組みには、「薄れゆく被爆体験の継承につながれば」という思いもあるようだ。

 光村図書出版が小中学生の保護者へのアンケートで「子どもに戦争や原爆のことを伝えるために適切な方法は?」と質問したところ、7割を超える人が「学校の授業や教科書」と回答している。

 他には「被爆した人やその子孫の人からの体験談」が21.3%、「広島や長崎の資料館や跡地などの訪問」が31.7%と、“被害に遭った人などから直接話を聞く機会なども重要”と思っている保護者が多いことも分かった。

 しかし、こういった保護者の思いと現状は大きく違うようだ。小中学生への「原爆のことを知っている?」という質問には、およそ8割が「知っている」と回答している。

 このうち「どうやって原爆のことを知った?」という問いに対し、およそ7割が「学校の授業や教科書」とするなか、「被爆した人やその子孫の人からの体験談」が4.6%、「広島や長崎の資料館や跡地を直接訪問」が8.9%と、被害に遭った人などから直接知る機会は非常に少なくなっていることが見えてきた。

核廃絶への活動

 その理由の一つに、「被爆者の高齢化」が挙げられる。厚生労働省によると、広島と長崎に投下された原爆によって被爆した人たちの平均年齢は、今年3月時点で85.58歳となっている。

 今回の企画を監修した、東京大学大学院の渡邉教授は「被害に遭われた人から話を聞くのは、現地に行かない限りチャンスは少ないと思う。今回のAR体験を通して、原爆は『恐ろしい』と思った若者たちの中の一部が、さらに色々と調べて活動を展開してくれるようなきっかけになってくれれば」と話している。

(「大下容子ワイド!スクランブル」2024年8月5日放送分より)

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