2022年4月と8月に大規模火災に見舞われた、北九州市小倉北区の旦過(たんが)市場の1度目の火災から19日で2年。市が火災前から進めてきた市場の再整備事業も影響を受けたが、今夏にも一部区域で解体が始まり、事業が本格化する見通しだ。ただ、移転補償の交渉はいまだ完了しておらず、市場関係者の間には不安と期待が入り交じる。
旦過市場は「北九州市民の台所」として長年親しまれてきたが、度重なる豪雨による浸水被害や建物の老朽化を受けて再整備が決定。計画では、市場内を4区画に分けて段階的に整備し、市場南側に4階建ての複合商業施設(延べ床面積約8700平方メートル)を建設する。対象区域にある店舗は順次、この施設などに移ってもらう予定だ。
市は当初、22年度中に解体を始め、23年度中の施設完成を目指していたが、2度の火災で計87店舗が焼損。計画は大幅に遅れ、変更を余儀なくされた。
市によると、今夏にも解体が始まるのは商業施設の建設予定地があるエリア。アーケード沿いのエリアも火災後の調査で老朽化が判明したため、解体時期を前倒しして同時期に解体する方向で調整している。
両エリアの店は新設する商業施設に移転する予定だが、施設の完成は25年度にずれ込む見通し。施設ができるまでは、焼損跡地につくられた仮設店舗「旦過青空市場」などで営業する。
市場西側の神嶽(かんたけ)川沿いのエリアや2度の火災で焼損したエリアは、市が土地を整備した上で市場関係者が中心となって建物を新設する予定。事業の完了時期は火災前の計画通り、27年度末までを目指している。
市は火災前から、店の移転に向けた補償費用の交渉を地権者などと進めており、今夏にも解体予定のエリアでは約7割に当たる46件の同意を得ているという。ただ、残る約3割の16件は同意に至っておらず、市は交渉を急ぐ方針だ。
夏にも解体される見通しのホルモン店「新井商店」の福田雅美さん(52)は「補償額はまだ決まっていない。市からは青空市場への移転を打診されているが、1年半後には新施設に移らなければならず、2回の移転でいくらかかるのか見通しが立たない。新市場への期待と、店をたたんだ方がいいのかという不安の両方がある」と吐露する。
再整備に必要な費用もネックだ。当初の計画では総事業費を34億3500万円と見込んだが、物価高による資材価格の高騰や、火災を受けて安全に配慮した計画の見直しなどで、約13億円増の47億4900万円に膨らんでいる。
市神嶽川旦過地区整備室の草野尚嗣室長は「増額分が店主の負担増にはつながらない。店舗ごとに違う悩みがあり、不安の解消に努めたい」と説明。「個性的な人、店が集まってこその旦過。新施設に戻ってもらえるよう、事業を進めていきたい」と話す。
一方、ここにきて急浮上しているのが、北九州市立大が27年4月に開設を目指す新学部「情報イノベーション学部」(仮称)を、再開発後の旦過市場内に誘致する計画だ。市場関係者は3月、市場内への新学部設置を求める要望書を市に提出した。
中尾憲二・旦過市場商店街会長は「伝統ある市場と若い人によるDX(デジタルトランスフォーメーション)の融合は、全国でも類を見ない取り組みになる」と強調。「学部の設置で市場の姿も大きく変わる。再整備計画もようやく形が見えてきた。市場の未来像を早く描きたい」と期待した。【山下智恵、日向米華】
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