大阪市と堺市の両消防局は1日から、救急車で患者の搬送に従事する救急隊のコンビニエンスストア利用を認める運用を始めた。連続出動や長時間出動などで消防署に戻れない時、店舗で飲食したりトイレを利用したりできるようにする。大阪府内初の取り組みで、高齢化や酷暑による夏季の出動数増加で深刻化する隊員の負担軽減と、救急体制の維持に役立てる狙いがある。【野原寛史】
「このままでは、救急隊のサービス維持や向上が困難になる」
大阪市消防局の岸本晃・救急課担当係長は、救急隊の出動が年々増加の一途をたどっていることに強い危機感を募らせる。2023年の救急出動件数は、前年比8%増で過去最多の26万3089件。堺市消防局も23年は同じく過去最多で、前年比4・6%増の7万741件だった。
出動数は夏季と冬季に増加する傾向があり、特に酷暑となる8月は高齢者を中心に熱中症患者や暑さで体調を崩す人が急増する。両市消防局はともに予備隊を増員して対応している。だが堺と高石、大阪狭山の3市を管轄する堺市消防局の片岡竜彦救急課長は「昨夏は出動可能な救急車がゼロになることはなかったが、厳しい状況の日があった。今年の出動件数は昨年をさらに上回るペースで、7月の月間出動件数も過去最多になりそうだ」と危機感をあらわにする。
繁忙期の救急隊は患者を搬送した病院から休む間もなく次の現場に向かう連続出動や、新型コロナウイルス感染症などの搬送困難症例の患者の対応に追われる。その結果、朝から晩まで署に戻れず、飲食をする時間がほとんどなくなる事例があるという。軽食や飲料を車内に用意していても対応しきれないことがある状況を受け、両市はそれぞれ今回の取り組み実施を決定。既に制度を導入済みの神戸市や奈良市などの事例も参考にした。
片岡課長は救急隊員の疲労の蓄積がサービス低下だけでなく、最悪の場合は事故などの重大ミスにもつながりうると説明。「隊員の体調管理対策は、救急隊のサービス維持にもつながっていく」と理解を求める。
ただ、救急車がコンビニなどに駐車していると「事件や事故があったのか」と勘違いされる場合がある。さらに隊員が商業施設の利用や敷地内で飲食していると、一部市民から批判やクレームが寄せられる懸念があった。そのため、両市消防局はともに車両のフロントガラス部分に隊員がコンビニを利用中であることを示すパネルを掲示する。車内には必ず隊員を残し、急な連絡にも即時対応できるようにしている。
大阪市消防局は、搬送の必要がない軽症者の救急要請が増えることも逼迫(ひっぱく)の要因とし、「緊急性の有無を迷った際は、救急安心センターおおさか(06・6582・7119もしくは#7119)に相談してほしい」と呼びかけている。
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