パリオリンピックが盛り上がるなか、現地ではトラブルも相次いでいる。開会式当日には、フランスの高速鉄道TGVの3路線で放火事件が起き、出場選手らを含む約80万人が影響を受けた。後にフランス政府は、極左活動家を逮捕したと明かしている。開会式でも、ドラァグクイーンやトランスジェンダーモデルのほか、裸の歌手がギリシャ神話の神に扮して、ダ・ヴィンチの名画「最後の晩餐」を演じたことに賛否の声が上がった。
【映像】“FUCK THE OLYMPIC”の旗に、燃やされるエンブレム…反対する市民の様子
こうしたことは、今回に限ったことではない。2021年の東京オリンピックでも大会費用が増え、終了後にも汚職事件で逮捕者が出るなど、後味の悪さが残った。多くの感動と喜びを与える一方で、その存在意義を問う声もある。『ABEMA Prime』では有識者とともに、オリンピックの必要性を考えた。
■“五輪災害”に危惧「IOCのイベントのために、強制退去や環境破壊、交通規制をやる法的根拠がどこにあるのか」
『パリと五輪 空転するメガイベントの「レガシー」』の著者で、パリオリンピックの開催に反対する団体「Saccage2024」メンバーの佐々木夏子氏は、「五輪だから」という理由だけで生活が脅かされる“五輪災害”を危惧し、五輪に向けた都市開発のための強制立ち退き・人権侵害・環境破壊を問題視している。
開催反対を訴える理由として、まず選手村建設のための立ち退き強要がある。移住労働者用住宅から224人が立ち退きとなり、3つの学校・19の企業が取り壊された。また、顔認証の監視実験が行われることも、人権活動団体が「AIによる監視がニューノーマルになる」可能性を懸念する。加えて、テロ対策の立ち入り制限区域が設定されることで、地元住民も通行証が必要となり、市民から不満が出ている。
佐々木氏は前提として「スポーツ自体の魅力は否定しない」としつつも、「オリンピック開催によって、普段できないことができてしまう」と語り、「IOC(国際オリンピック委員会)は国際機関ではなく、単なる非営利団体だ。IOCのイベントのために、強制退去や環境破壊、交通規制をやる法的根拠がどこにあるのか」と疑問を呈した。
佐々木氏が、こうした考えに至ったのは、東京五輪の招致がきっかけだった。「当時の安倍総理が、IOC総会で『アンダーコントロールできている』と発言した。当時から自分はフランスにいたが、日本にいる人の方がショックを受けただろう。それ以来、IOCに不信感を抱き、パリ五輪の招致に反対するグループに参加して、今日に至った」と話す。
■JOC職員「開催都市が責任を持たなきゃいけない」
加えて東京大会でもあった、都市開発への影響も反対する理由の一つだと主張する。新国立競技場建設のためアパートが取り壊され、約200世帯の居住者が、立ち退きを迫られた。 また、明治公園に寝起きしていた野宿者を強制排除したことを受け、野宿者らが国や都を提訴し、現在も係争中だ。
JOC(日本オリンピック委員会)職員として長野五輪招致に携わったスポーツコンサルタントの春日良一氏は、佐々木氏の主張に「一つのことを捉えるのでも、表と裏で違う」と説明、「民間による例外が起こるのが、オリンピックの特殊なところ。法外なことをするのが、国家権力ではなく、ただの民間団体であることが、オリンピック運動の肝で、平和を作るための仕掛けだ」と話す。
さらに「立候補した都市から、一番いいと思う場所を選ぶのも、民間の個人であるIOC委員たちだ。開催地に選ばれた都市は、IOCの理念に沿った契約に基づいて、準備しないとならない。開催都市が責任を持たなきゃいけない」と続けた。
佐々木氏は「全く同意できない」と反論し、「『開催都市契約』を読むと、IOCが収入を含めて、大会の全権利を持っている。一般的なビジネス契約であれば、全権利を有する者は、責任も全て持つ。双方が権利と義務を持つ“双務契約”ではなく、一方的な“片務契約”であることは、おかしいのではないか」と訴えた。
■「IOCを非営利団体じゃなく株式会社にすればいい」
NPO「あなたのいばしょ」理事長の大空幸星氏は、オリンピックの意味合いが変化してきた歴史をたどり、「商業主義的であり、1936年のベルリン大会からは、政治利用もされてきた。しかし、政治的でも商業主義的でもない『平和の祭典』と、御託を並べられてしまうことで、現実とのギャップで反発が出るのではないか」との見方を示す。
その上で、「都知事1人ではできない力で、より良い社会を作れるはずなのに、そうでないところに議論がある。五輪反対派の中にも、商業主義に寄っている部分を批判する声があり、オリンピックそのものが健全になれば、価値はもっと上昇していく」と話した。
佐々木氏は「(商業主義を正当化したいのであれば、)IOCを非営利法人じゃなくて、株式会社にすればいい」といい、「そうすれば透明性も確保出来る。そもそもオリンピックの赤字は、開催国の納税者がかぶることになる。IOCみずからが収益も損失も手にするシステムを作ればいい」と提案した。
大空氏は「極端に反対する人は、何をやっても絶対にいる」とした上で、「反対意見を聞くと同時に、パリ大会では東京大会より、自然や文化資本に配慮していることを肯定しないと、変わるものも変わらない。政治的な議論も重要だが、実際に動かすためには、評価もしないといけない」と述べた。(『ABEMA Prime』より)
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