清田さん(右)の腕を借りて歩く三好さん=東京都渋谷区猿楽町の「ハリウッド ランチ マーケット」で2024年7月8日午前11時36分、原奈摘撮影

 4月から民間事業者による障害者への合理的配慮が義務化された。しかし、障害者の接客経験がこれまでなかった店にとってはどう対応すればいいのか心配だろう。障害者が行きつけにしている店ではどのような対応をしているのか。視覚障害のある美容師、三好直人さん(27)の買い物について行った。

 三好さんは網膜色素変性症に難聴を伴う「アッシャー症候群」という難病を中学生の頃に発症した。視野が狭くなっていく進行性の病気で、現在は光がわかる程度の視力だ。難聴については補聴器をつけている。

 かろうじて見えていた時に美容師の国家資格を取り、現在はヘッドスパ専門の美容師として働いている。

 高校生の頃からおしゃれに興味があった。今は色柄などをほとんど判別できないが、見えていた時の記憶を頼りにコーディネートをイメージしながら買い物を楽しんでいる。

サンダルの形を確かめる三好さん(左)=東京都渋谷区猿楽町の「ハリウッド ランチ マーケット」で2024年7月8日午前11時13分、原奈摘撮影

 7月上旬、三好さん宅の最寄り駅で待ち合わせると、白杖(はくじょう)をついた三好さんが歩いてきた。記者の右肩に左手を置いた三好さんと電車を2回乗り換え、東急代官山駅で降車した。ここから少し歩いて目的地のアパレルショップ「ハリウッド ランチ マーケット」(東京都渋谷区)に向かう。

 店まで5メートルほどに迫ると、三好さんが「もう近いですね。匂いがします」と言う。近づくと確かにお香のような香りがただよう。その匂いをしっかり記憶していることに驚いた。

 入店すると、これまで三好さんに接客していたスタッフは退社していたことがわかった。代わりに他の視覚障害者の接客をした経験のあるショップマネジャーの清田直樹さん(48)が対応してくれるという。

 三好さんだけでは欲しいものを選ぶことはできない。ズボンが欲しいと伝える三好さんに、清田さんは「ショートと長いのどちらがお好きですか」と質問。「長い方です」と答える三好さんから清田さんは次々と好みを聞き出していく。

ズボンのストレッチ素材の伸びを確かめる三好さん(右)=東京都渋谷区猿楽町の「ハリウッド ランチ マーケット」で2024年7月8日午前11時17分、原奈摘撮影

 さらっとした手触りの涼しげなパンツを持ってきた清田さんは「横に伸ばしてみてください」と言い、三好さんがストレッチ素材であることを確認する。自宅の服も手触りで判別している三好さんにとって実際に触ってみることは大切だ。

 清田さんは「全部で8色あって、白は少し黄色がかって、ブルーはなす紺みたいな色で……」などと細かく伝え、三好さんも「はやりはゆったりと細身とどちらですか」などと尋ねる。

 同じようにしてTシャツも何枚か選んでもらい、三好さんは試着室に入った。着心地やサイズ感は試着すればある程度わかるが、上下のバランスや色合いはわからない。そこで、清田さんが「細身の方が合うと思いますね。今日はいてきたパンツにも似合いますよ」とアドバイスする。

 三好さんは紫と白の半袖Tシャツ2枚とカーキ色のロングパンツ、フレグランスミストを購入し、「いい買い物ができました」と満足した様子で店を出た。

店のお香の匂いを嗅ぐ三好さん(右)=東京都渋谷区猿楽町の「ハリウッド ランチ マーケット」で2024年7月8日午後0時8分、原奈摘撮影

 買い物を振り返って「僕はどこに店員さんがいるかもわからないので、親切に対応してくれてうれしかった。色もイメージしやすいように丁寧に説明してくれた」と評価する。一方で、三好さんの求める情報と店側が提供する情報が合致しない課題も見つかった。

 後日、清田さんに尋ねると、「その都度課題を見つけて買い物しやすい環境をつくれるように改善していきたい」と話した。

 美容やファッションを通じて視覚障害者の社会参加を支援する一般社団法人「日本視覚障がい者美容協会」(埼玉県上尾市)代表理事の佐藤優子さんは「障害者の来店を事前に想定しておくことが大切で、障害の種別ごとに来店から会計、退店までのフローを作っておくといい」と事業者に向けてアドバイスする。

買い物を終え、満足した様子の三好さん=東京都渋谷区猿楽町の「ハリウッド ランチ マーケット」で2024年7月8日午後0時22分、原奈摘撮影

 そのうえで、「視覚障害者への安全な介助は最低限必要だが、その先は『おもてなし』なので、どのようなことができてどのようなことができないのか事前に考え、来店時に障害者に伝えてほしい」と提案する。【原奈摘】

合理的配慮

 障害者の活動が制限される社会的な障壁があった場合、本人から申し出があれば、負担が重すぎない範囲で個々のニーズに応じること。企業など民間事業者には努力義務となっていたが、4月施行の改正障害者差別解消法で義務化された。

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