「エイトシックス・プロジェクト」をPRする今村進吾さん(左)と桑原勇太さん=広島市中区の平和記念公園で2024年7月25日午前10時44分、中村清雅撮影

 音楽やアート、ダンスを通し、若者が平和について考える機会を――。広島市の会社員やアーティストらが中心となり、8月6日にライブなどを開催する「EIGHT SIX PROJECT(エイトシックス・プロジェクト)」が今年も開かれる。メンバーは「楽しいイベントのなかに、『平和』を織り交ぜたい」と話す。

 プロジェクトは2001年、バンド活動をしていた会社員の今村進吾さん(49)が中心となって始めた。広島市出身の今村さんは広島経済大時代、県外のミュージシャンやバンド仲間らを市内案内の一環で原爆ドームや原爆資料館に連れて行った。「バンドマンたちがまじまじと見ていた。自分にとっては日常風景でも、県外の人には大きなインパクトがあると実感した」という。

 大学時代には、阪神大震災のボランティアも経験。「焼け野原のようになった神戸の街を見て、かつての広島もこうだったのかと思った。原爆というものをリアルに感じるようになった」と振り返る。

 卒業後、会社員として働く中で、何か平和に関するイベントを開きたいと考えるようになった。しかし、「戦争反対」や「核兵器廃絶」という直接的なフレーズが同世代に届きにくいという感覚もあった。1年ほど悩んだ末、8月6日にライブイベントを開いて参加者に平和について考えてもらうアイデアが浮かんだ。

 葛藤もあった。それまで広島の音楽界では、「8月6日は慰霊の日」という意識が強く、イベント開催などを控える傾向があったからだ。被爆者で元小学校教諭の祖母に相談すると「若い人には若い人のやり方があるから、やってみれば」と背中を押された。「被爆者がどんどん少なくなっている。若い人が何でもいいので平和について考えるきっかけを作ることが大事だ、と祖母は思ったのではないか」と振り返る。祖母は08年に86歳で亡くなった。

 01年に始まったエイトシックスは、8月6日のライブイベントを軸にアートイベントや写真展などを開催している。ライブ会場には、原爆で焼け野原となった広島の街の写真を掲示し、「あなたにとって8月6日とは何ですか?」と書かれたアンケートに記入してもらう。

 22年からは広島市内のダンス教室とコラボし、8月6日に平和記念公園でダンスイベントを開催。「ハチロクダンス」を創作してSNSで公開している。17年から運営メンバーとして参加する会社員の桑原勇太さん(33)は「祖父が被爆者だが、普段は友人などと平和の話をすることはない。イベントを通し、平和が日常に紛れ込むようになればいい」と話す。

 今村さんは「小さな平和を束ねていくのがエイトシックス。今、本当にいい流れができている。早くバトンタッチし、若い人のアイデアでプロジェクトを進めてほしい」と期待する。

 今年のエイトシックスのライブイベントは8月6日午後6時から、広島市中区本通の広島クラブクアトロ(082・542・2280)で。「bokula.」「シャイトープ」などのバンドが出演する。チケットは前売り4000円、当日4500円、中学生以下無料。【中村清雅】

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