優れた嗅覚から「鼻の捜査官」とも呼ばれる警察犬の役割が近年、刑事部門から警備部門に広がっている。銃器や爆発物による事件を未然に防ぐため、選挙遊説や大規模イベントで活用される「警備犬」の現状を探った。【佐藤緑平】
犬舎などの整備で数億円規模
福岡市中心部でゴールデンウイークに開かれた「博多どんたく港まつり」。パレードが始まる約1時間前の5月3日正午ごろ、福岡県警から嘱託されたハンドラー、吉岡友里絵さん(33)=八女市=に連れられたジャーマンシェパードの警備犬「小麦」(雌、6歳)が、人混みをかき分けながら物陰や草むらに鼻を近づけて回った。
どんたくは、2日間で約230万人が訪れた大規模イベント。「小麦」は、県警中央署からメイン会場までの往復1キロの歩道に異常がないことを約1時間かけて確認した後、署の駐車場に警察官らが訓練用に隠した爆発物の臭い入りのカプセルを見つけ、活動を終えた。吉岡さんは「すれ違う人のカバンの中でも爆発物などの異物があれば犬は分かる」と話す。
犬種で若干の差はあるが、犬の嗅覚は人間の数千倍とされ、容疑者の追跡など刑事部門で活躍してきた。一方、警備部門でも近年、北海道(2016年)▽福岡(17年)▽埼玉、愛知、大阪(18年)▽宮城(22年)▽神奈川(23年)――と各地の警察で導入が相次ぎ、現在は11都道府県警に広がる。
背景には、自然災害時に災害救助犬としても活用されることに加え、テロの脅威が高まっていることがある。欧米では大規模イベントや宗教関連施設で多くの人が亡くなるテロ事件が相次いで発生。国内では22年7月に安倍晋三元首相銃撃事件、23年4月には岸田文雄首相襲撃事件が起きた。
組織に属さず単独でテロ行為に及ぶ「ローンオフェンダー」の場合、治安当局が事前に事件を察知するのは困難とされる。市販の化学物質から爆発物を製造するケースも後を断たない。販売事業者との連携や過激なウェブサイトへの対策と並行して、現場で危険物を察知する「警備犬」の重要性も改めて認識された。
警備部門への警察犬導入には費用や人材の面で課題がある。現在導入する11都道府県警のうち、福岡など4県警は民間団体に飼育管理を任せている。警察が担えば、より機動的に出動できるが、福岡県警によると、犬舎などの整備で数億円規模の予算が必要という。
また、公益社団法人「日本警察犬協会」(東京都)によると、協会の公認訓練士は07年度(1130人)をピークに、23年度は978人と減少傾向にある。同協会の木村佳晴事務局長は「都市開発で犬の飼育環境が限られてきたことも一因ではないか」とみる。
テロ対策に詳しい日本大学危機管理学部の福田充教授は「警備犬の嗅覚は爆発物の嗅ぎ分けなどに実質的な効果がある。犯罪をたくらむ人に警備犬を『見せる』ことによる抑止効果も期待される」と話した。
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