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 創刊150年の歴史を持つ毎日新聞が、今年9月末をもって富山県内の配送を休止すると発表。「全国紙」と呼ばれる朝日・毎日・読売・日経・産経の5紙の中で、配送休止が出るのは、今回が初のケース。富山県内の去年の販売部数は、推計840部だったが、大阪の工場から輸送するコストや印刷費などの負担も増加したことで、休止の決断が下されたという。富山県での取材体制は維持しつつ、県内読者にはデジタル版への移行も促し、希望すれば郵送も可能だ。全国紙トップの読売新聞も、30年前は1000万部を超えていたところが、現在は618万部にまで減少。今後、全国紙は「紙」にこだわるビジネスモデルを維持できるのか。『ABEMA Prime』では、新聞社OBらが出演し議論を繰り広げた。

【映像】減り続ける新聞部数 年別グラフ

■全国紙の普及率が高いのは都市部がメイン 他地域ほど強い地方紙

 各都道府県に配送されている「全国紙」だが、普及率にはそもそも偏りがある。首都圏、京阪神などいわゆる都市部においては大きな普及率を誇るが、他のエリアになるほど「地方紙」が強くなる。毎日新聞OBでジャーナリストの佐々木俊尚氏は「結局、『全国紙』という看板を持つために発行している。840部をやめても売り上げには大して影響がないだろうが、そのぐらい小さなコストでさえも削減しないと済まなくなってきた」と語ると、同じく毎日新聞OBでジャーナリスト、YouTubeで「記者VTuberブンヤ新太」として活動する宮原健太氏も「すごく複雑な気持ちだが、こうなっていくだろうなと思っていた。初任地が宮崎県だったが、人口も少なく部数もあまり出ていない。記者も少なくて大変だった」と、全国紙記者時代の苦労を述べた。

 宮原氏は今でも全国紙6紙に目を通しているが、ビューワー(デジタル版)を利用している。特定の記事を求めるというのではなく「私はちょっと違うベクトル。新聞紙面は一覧性がある。1面があり、政治面、経済面、社会面といろいろなニュースがしっかり載っている。一方、ネットではレコメンドされてしまうので、自分の好きな情報やバズった情報が来る。今の世の中の全体像を知るという上では、確かに紙の方がいいところはある」としたが、「それを説いたところで(紙に)戻っていくのは難しい。デジタルの方で新聞社が頑張った方がいいのでは」と加えた。

■紙じゃなきゃダメ?進むネット化「新聞社が価値観をアップデートできていない」

 新聞各社からも大量のネットニュースが配信される中で、どこまで「紙」にこだわるのか。佐々木氏は、新聞とネットで記事の「深さ」に言及した。「情報の持っている意味が新聞時代とネット時代で変わっている。新聞の情報は基本的に内容が薄い。自分の専門分野について新聞記事を読んでみるとわかる。一方でネットには専門家が書くような深い情報の記事がたくさん転がっている。新聞は多くの人が薄く広い記事を読む時代のもの。今のネット時代には情報リテラシーがあれば、深く突っ込んだ記事がどんどん読める。自分の好みの記事だけ読んでしまう“タコツボ化”が起きて、情報格差と分断が広がっている側面もあるが、深い情報を学んでいる人たちがいるのも必要で、新聞はそれに応えられていない」。多くの人に読まれる前提で「浅く広い」記事を載せている新聞が、時代にマッチしていないという指摘だ。

 また時事YouTuberのたかまつななも、新聞業界に接した上での見解を示した。「新聞自体が自分たちの役割を見直したり、価値観をアップデートできていないことが一番の問題。新聞社が何を競争しているかといえば情報の早さで、スクープを出すことに命をかけている。だが、新聞が届くころには一部の情報がネットに出ていて、情報が遅れたものが新聞に載っていることもある」と、情報鮮度の面での課題を突いた。

■海外では大ヒットのデジタル版も より深く求められる専門性

  「紙」を離れても、新聞社は生き残れるのか。佐々木氏はネットで読めるデジタル版についても解説した。「サブスク、要するに定額月額課金で成功しているのは経済紙だけ。日本だと日本経済新聞、アメリカだとウォール・ストリート・ジャーナルだし、イギリスならフィナンシャル・タイムズ。一般紙で唯一成功しているといえば、ニューヨーク・タイムズだ。もともとはニューヨークの地方紙でしかなく、部数は数十万部ぐらいと少なかった。実は潜在的な読者が世界中にいたから、デジタル版で読めるとなった瞬間、1000万人まで読者が増えた」。経済という専門性、ニューヨークという世界的に注目される大都市のローカルニュースという価値は、デジタル版になっても失われることがなかった。「我々は今の時代、もっと深く突っ込んだ専門性のあるメディアを求めているのに、今の新聞はその力量を持っていない。特ダネ競争も21世紀の今、そんなことは誰も求めていなくて、今起きている問題の背景は一体なんなのかという深い分析が読みたい。そこにいまだ、重きが置かれていないから信頼を失っている」と踏み込んだ。

 日本の全国紙と地方紙の違いはどうか。宮崎県で取材してきた宮原氏は、現場で取材力の差も感じた。「確かに宮崎では地方紙の方が強い。単に部数が出ているだけじゃなく、記者の数も多いし、いろいろな事件を取ってくる」。全国紙との違いは、全体を見渡しているかどうか。「政治部に長くいたのでよくわかるが、地方紙が中央政界のことを全て取材はせず、宮崎県選出の議員や関係するニュースを中心に追いかける。全国紙の場合は全体的に政治を把握、報道できる部分があり強みだと思う。ただ、これも通信社が地方紙に記事を出しているので、全国紙というビジネスモデルがなかなか厳しいのはいかんともしがたい」と、全国紙だからこそできていた情報の網羅も、強みと呼ぶには難しい時代になっているとした。

 紙からネットへの移行が避けられないとも言われる中、「新聞」というメディア事業の価値は今、いかほどのものか。ドイツ人のエコノミスト、イェスパー・コール氏は「投資家の観点から見ると、40年間全く変わっていない業界はメディアだけ」だという。「メディアも記者もプライドはすごく高いが、エコノミスト、投資家からすれば、今のメディア業界でどう儲けるかに対しては(企業の)不動産のことだけで、コンテンツや情報に関してはマイナーだ。そんなことがあるのか。やはり新聞もテレビも抜本的な改革が必要だと思う。アメリカではワシントン・ポストを、アマゾンのジェフ・ベゾスが『紙に存在価値がある』という自信があって、なんとかしようと買収した。改革を日本でもやるべきではないか」と、情報産業としての価値を取り戻す改革の必要性を訴えた。

 これには佐々木氏も同調する。「全くその通り。日本の企業は『失われた30年』の間に、お前らはダメだと散々言われた結果、一生懸命ガバナンス改革をし、世代交代もあって、ようやく2020年代に入って日本企業の経営が変わってきたと、海外からも投資がすごく入っている。ただ、その中で唯一経営が変わっていないのがマスメディア。それは誰からも批判されないからだ。また新聞を支えていこうという人たちの気持ちもわかるが、今新聞が信頼を得られていない。この20年で部数がどんどん減ってく中で、高齢者に読者がシフトしていったが、その世代は極左や極右もいるので、どんどん極端な方に合わせてしまっている。僕がいたころの毎日新聞と今の毎日新聞は、違う新聞と思うくらい」とも補足した。

■生き残りをかけて新聞社は変われるのか

 民主主義国家である日本において、その公共性を支える基盤として長く機能してきた新聞社だが、全国紙が一部、配送休止をしなくてはならない現状から生き残りをかけて変われるのか。立命館大学教授の柳澤伸司氏は「新しいメディアを生み出して、それをみんなが支持する勢いが本当に生まれるのか。(新聞業界には)ある意味で絶望しつつも、なんとか希望を繋いでいくようなところがある。ジャーナリズムの役割を私たち自身も読者も考えなければ。淘汰されるところはしかたないが、新しいビジネスとして成り立っていけるかどうかまで考えなければ」と、新聞に代わるメディア事業立ち上げの難易度をあげた。一方、宮原氏は「新聞が情報発信源を独占していたところから、今はネットが主流でみんなが発信する時代。個人、記者の顔が見えるような形でもっとファンを作っていくような、そういう組み合わせでなんとか生き延びていくのが今後のメディアに必要」と求めた。

 また、今の新聞事業を残した上での改革を望むたかまつ氏は「YouTubeでネットのニュース系メディアを見ても、識者を読んで議論させる番組が多いが、それは取材ができないから。取材にいって情報を積み上げるのは、ものすごくコストがかかって見合わない。これから新しいメディアが新聞社のような社会的意義を持ち、記者を全国に張り巡らせたとして、今の新聞社と同じような社会的意義を発揮できないんじゃないか。新聞を残す議論を正面からするべき。新聞社が統廃合するのも一つ」と提案。これに佐々木氏は「(統合で)スケートメリットが出るかといえば、かなり難しい。新聞も所詮、営利事業。別に公的な機関でもなんでもないし、結局ビジネスの市場原理に従って潰れてくなら潰れていくしかない。我々が議論すべきは、新聞を残すべきか否かではなく、新聞がなくなった後にどうやって我々のこの民主主義の公共権を維持するのかでは」と語っていた。
(『ABEMA Prime』より)

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