原爆の悲惨さを描いた絵本「おこりじぞう」で知られる広島の反戦画家・四國五郎(1924~2014年)を中心に、世界平和の実現を目指して55年に始まった「広島平和美術展」が28日から広島市で開催される。今年は70回目という節目を迎えるが、関係者に取材すると、その胸中は複雑だった。
反戦画家・四國五郎らが創設
美術展は、55年8月6日に広島であった「第1回原水爆禁止世界大会」の記念行事として四國が仲間と企画した。原爆で弟を亡くした四國が「平和や民主主義の実現を目指す市民による美術展を開こう」と呼び掛け、「平和の使徒」を描いた画家、柿手春三(1909~93年)らが応じた。第1回は絵画や彫刻など170点が集まり、入場者が殺到したという。
新型コロナウイルスの影響で中止した20年を除いて毎年開催されてきた。「平和を願う気持ちに優劣はない」という理念のもと、無審査制を採る。作品の並べ方にも上下はない。美術展の趣旨に賛同し、松井一実・広島市長は趣味の絵画、岸田文雄首相の妻裕子さんは生け花を出品している。
美術展の運営委員、千馬弘子さん(87)が四國に出会ったのは、冷戦真っただ中でベトナム戦争が続いていた66年。作品を出品しようと事務局に電話で問い合わせた時に応対したのが四國だった。「出品の締め切りを過ぎていたが、快く受け付けてくださった」。後に千馬さんも事務局に加わり、交流を重ねた。「優しい人で怒ったところを見たことはないが、戦争や核への憤りが作品に込められていた」と振り返る。
芸術通じて核廃絶訴え
芸術を通じて真っすぐに核廃絶と平和を訴え続けた四國。今年は生誕100周年、没後10年にも当たる。その遺志を継ぎ、第70回は四國が描いた原爆ドームの油絵も特別に展示する。
だが、千馬さんの表情は浮かない。「私が初めて出品した頃と世界の情勢は変わっていない」。22年2月にロシアによるウクライナ侵攻が始まり、23年10月からはイスラエルがパレスチナ自治区ガザ地区への攻撃を開始。その対応を巡って世界は二分している。「核兵器は無くならないし、話し合いではなく武力による抑圧が世界の常識になっている」
それでも、千馬さんは「私たちはアートで訴えることしかできない。平和が実現するまで美術展を続けたい」と誓う。美術展は28日から8月2日まで広島市中区の広島県民文化センターで開かれる。午前10時~午後6時(最終日は午後4時)。一般300円。【安徳祐】
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