オリンピックシンボルが掲げられたエッフェル塔と、開会式でパレードが行われるセーヌ川=パリで2024年7月17日午後8時22分、和田大典撮影

 26日にパリ・オリンピックの開幕が迫る中、フィンランドの情報セキュリティー企業「ウィズセキュア」が「パリ五輪はこれまでの五輪以上に悪質なサイバー活動のリスクが高まる」と警戒を呼びかけている。2021年の東京五輪・パラリンピックでは計4億5000万件のサイバー攻撃があったとされるが、パリ大会では「東京大会の10倍になると予想される」としている。なぜ、ここまで増えるのか。

 同社は7月、パリ五輪におけるサイバー脅威に関する報告書を公表。報告書で大きな脅威として挙げたのが、「国際オリンピック委員会(IOC)とフランスを弱体化させる能力と目的を持つ」とするロシアの存在だ。

 パリ五輪は22年2月に始まったロシアのウクライナ侵攻が続く中での開催となる。ウクライナ侵攻を受けIOCは、ロシアと同盟国ベラルーシについて国としてのパリ五輪出場を禁じ、「中立な立場の個人資格の選手」に参加を限定する厳しい措置をとっている。このため、報告書ではロシアが国際舞台を利用し、「IOCや、世界的にも影響力が大きい開催国フランスの信用失墜を狙っている」とした。

 同社の脅威インテリジェンス部門の責任者、ティム・ウエスト氏は「地政学的な混乱に加え、22年から続く多くの国々とロシアとの関係悪化により、リスクが高まる」と警戒を呼びかける。

 過去の五輪を標的にしたサイバー攻撃でも、ロシアの関与が指摘されている。18年開催の平昌五輪(韓国)では、「オリンピックデストロイヤー」と呼ばれるマルウエア(悪意のあるプログラム)により、通信環境などに支障がでて、観客がチケットを印刷できなくなるトラブルが生じた。

 平昌五輪でIOCは、国家ぐるみのドーピング問題を理由にロシア選手団の参加を禁止していた。報告書では「国際スポーツイベントへの参加を停止されたことに対するロシアの報復行為であることはほぼ間違いない」としている。

 ロシアはサイバー攻撃と連動した人的作戦を展開する能力が高いとし、「五輪のネットワークと、それを支える旅行や接客業などのフランスのインフラに標的を絞った攻撃が可能」と分析。また、政治的主張を目的にサイバー攻撃をする「ハクティビスト」については、「親ロシアとして活動するハクティビストが、五輪運営を妨害する可能性が高い」とも指摘する。

 国の威信をかけた五輪は、攻撃側からすれば格好の機会だ。ウエスト氏は「サイバーセキュリティー作戦を成功させることは五輪当局にとって大きな挑戦となるだろう。しかし、防御側も過去の五輪から得た教訓をいかしているはずだ」とする。【嶋田夕子】

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