公共交通網が脆弱(ぜいじゃく)な地域では、運転免許を返納すべきか悩む高齢者が少なくない。そんな中、三重県鈴鹿市寺家の中勢自動車学校が科学的根拠に基づいた講座「中勢ドライバーズフィットネス」を開設した。高齢ドライバーの身体・認知機能を鍛えることで運転寿命を延ばすとともに交通事故防止につなげる試みだ。
今月8日、自動車学校の教室であった講座には3人が参加。映像や音楽に合わせて踊ったり、タオルを使って体操したりと楽しみながら体を動かしていた。夫婦で参加した鈴鹿市の70代男性は「運転しないと買い物や病院にも行けず、車のない生活は考えられない。いつかは返納しなければならないのかもしれないが、1年でも長く安全に運転したい」と語った。
中勢自動車学校は鈴鹿医療科学大、大手カラオケチェーン「ビッグエコー」を運営する第一興商と連携し、高齢者を対象にした「中勢ドライバーズフィットネス」を考案した。
昨年11月から今年3月までスポーツ庁の補助金対象事業に採択され、運転寿命・健康寿命延伸「スマートドライバー講座」の実証実験を実施。県内在住の65歳以上の約40人を対象に月1回1時間程度受講してもらった。
その結果、指定速度での走行や一時停止、右左折などの状況判断が求められる運転技能検査の採点結果が大きく改善。認知機能と運転機能の向上が確認された。
この結果を踏まえて6月10日、一般向けに講座を開講した。コースは二つあり、映像を見ながら信号の色の変化に合わせて手足を動かしたり登場する動物の数を数えて記憶したりし、身体機能と判断力の向上を図るのが「SDエクササイズ」。もう一つはパーソナルトレーナーの指導を受けながらランニングマシンなどを使用して高齢者ドライバーの運転に必要な筋力を鍛える「ドライバーズフィットネス」だ。
実車を使わず、楽しみながら気軽にできることから1カ月で約30人が参加。いずれも予約制で、SDエクササイズは1回1時間550円、ドライバーズフィットネスは月額3300円となっている。
同学校の櫛田拓真社長は「免許返納はいつかはくるが、できるだけ運転を継続してもらうためにも自動車学校が再教育のアプローチをすべきだ。社会課題解決のために運転寿命を延ばし、交通事故を減らすことができればいい」と語った。
問い合わせは中勢自動車学校(059・367・7411)。【渋谷雅也】
高齢ドライバーの事故相次ぐ
県内では最近も高齢者ドライバーの交通死亡事故が相次いでいる。
伊賀市内では今月9日、交差点で横断歩道を渡っていた80歳の女性が右折してきた80代女性運転の軽バンにはねられ死亡。亀山市内でも同日、70代女性の軽乗用車と40代男性の大型トラックが正面衝突し、女性が死亡した。県警によると、昨年の交通事故死亡者数は66人で65歳以上の高齢者が33人と半数に上った。
警察庁によると、2023年に運転免許証が自主返納された件数は38万2957件で65歳以上が36万6846件を占めた。県内でも5930件のうち5755件と全体の9割を超える。75歳以上の運転免許の保有者には認知機能検査などが3年に一度、法定講習が義務づけられている。
一方で、運転をやめたことで認知症の症状が出始めるという研究成果もある。国立長寿医療研究センターの調査によると、免許返納などで運転を中止した高齢者は運転を続けていた高齢者に比べて要介護状態になる危険性が約8倍に上った。また、運転を続けた高齢者は続けなかった高齢者に対して認知症のリスクが約4割減少することが確認されたという。【渋谷雅也】
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