住宅街に建ち並ぶトマト栽培用のビニールハウス。温度や二酸化炭素、液体肥料などは最新技術で制御されている=東京都府中市四谷で、矢野純一撮影

 日本野菜ソムリエ協会が主催するトマトのコンクールで昨年と今年、東京都府中市でトマトを栽培する澤井政善さん(45)が2年連続で最高金賞を受賞した。家業を継ぐためサラリーマンから転身し、フルーツトマトの栽培を本格的に始めて3年で最高賞に輝いた。都市の農地は年々減少している。澤井さんは「農業を子どもの人気職業にしたい」と話す。【矢野純一】

 府中市の住宅街に大きなビニールハウスが4棟並ぶ。広さは約960平方メートル。温度や二酸化炭素濃度、液体肥料は全て最新技術を使った機械で制御されている。農薬を極力減らし、ハウス内でハチを飼って受粉している。今はちょうど収穫が終わった時期で、よりおいしいトマトを作るため、苗の植え付けに向けて準備している段階だ。

 トマトの養液栽培を始めてから3年目の昨年、同協会の全国ミニトマト選手権で最高金賞と金賞を、今年は全国トマト選手権ミディアム部門で最高金賞、全国ミニトマト選手権で金賞を受賞した。

ビニールハウス内でトマトを植える培地を確認する澤井さん。ちょうど収穫を終えたばかりだ=東京都府中市四谷で6月27日、矢野純一撮影

 糖度は普通のトマトの倍近い10度以上。トマト嫌いの子どもが食べることができるようになったと言われることが本当にうれしい。受賞を機に全国からも問い合わせがくるようになり、インターネットを通じての販売も考えている。

 幼い頃に祖父を亡くし、健康に寄与したいという思いがあった。大学卒業後、製薬会社に勤めたのも、こうした思いからだった。農業を営む父からは、30歳までは好きなことをやってもよいが、後を継いでほしいと言われていた。結婚を機に、2013年に家業を継いだ。

 トマトの養液栽培に出合ったのは、就農した翌年に参加した都の技術研修だった。健康に良いとされるリコピンなどが豊富に含まれるのも魅力だった。

 各地の農家に視察に行き、養液栽培や高糖度化の論文を読みあさった。大学時代に研究室で行っていた実験の手法を応用し、品種や肥料となる養液の割合や、水分量などの条件を数十通り変えて栽培し、糖度が高くおいしいトマトの栽培方法を模索した。

 就農当初はサラリーマン時代より収入が減る一方、労働時間は逆に長くなった。それでも、「喜ばれるし、楽しい」と話す。今は経営も安定し、サラリーマン時代より多くの収入を得るめども立った。夏休みもしっかり取ることができる。

 都市の農地は年々減っている。大きな理由は相続税の問題だ。相続の度、切り売りして面積がどんどん狭くなる。収入は農地の広さに比例するので、農業を維持できなくなる。 かつては、都市に農地は不要という考え方もあった。しかし、近年は、都市農業を見直す法律もでき、洪水の際の緩衝地や、災害の際の避難所設置先、環境や景観など、都市の農地が持つ多面的な機能が注目されてきた。

 澤井さんは「子どもが後を継ぎたいと言ったときには、農地を切り売りせずに継がせることができるようにしたい」と話す。今後はさらにおいしいトマト作りを目指すと同時に体験農園など、これまで以上に地域住民と絆を深めたいと考えている。農業への理解を深めてもらい、職業人気ランキングで「農業」と答える子どもたちが増えるようにしたいという。

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