クマが大量に出没して人身事故も発生している秋田県鹿角市が今年度、民家の周囲に植えた柿や栗の木の伐採希望者に補助金を交付する事業を始めたところ、市民から応募が相次ぎ、伐採作業が各地で続いている。クマが家に近づいて鉢合わせするリスクがあり、昔から続く農村の暮らしに根ざした風景も徐々に変化しそうだ。
市によると、この事業は「緊急ツキノワグマ誘引樹木伐採事業費補助金」。柿や栗の木1本あたり5万円を上限に伐採費を補助している。市民がクマ対策費として寄付した5000万円を原資に創設した基金を活用した。
しかし当初予算に計上した250万円(50本分)は既に底をつき、その後予算を追加。今年度は6月下旬に受け付けを締め切り、7月17日現在で栗280本、柿53本を伐採した。
「ウィーン、ウィーン」。作業員が木の根元に電動のこぎりの刃を当てると、一気に木片が噴き出した。
鹿角市花輪の鹿角高近くの住宅近くでは6月14日、早朝から高さ約20メートルの栗の木の伐採作業が始まり、約20分で巨大な木が横に倒れた。
地元で造林などを手がける「ランバージャック」の小田島隆臣社長(41)はこれまでに請け負った伐採作業について「やや栗が多い。この辺のクマは幹をひっかいたり、木の上に棚を作ったりして実を食べ尽くすので、クマがいたかどうかは割と簡単に見分けられる」と話す。
周囲の家に配慮して、切り倒す方角を工夫するなど伐採のやり方が難しくなる場合もあり、小田島さんは「高額だと1本30万円近い請求になる場合もある」と説明する。
「切るのは惜しいが…」
「この栗の木は樹齢40~50年で、毎年ものすごい量の実がなる。切るのは惜しくて仕方がないが、家族の安全を考えると伐採はやむを得ない」。伐採を依頼した地元の70代男性はこう話す。
この男性によると、鹿角高付近では近年クマの出没が相次ぎ、登下校中の生徒がクマをスマートフォンで撮影できるほどの距離まで近づいたこともあった。「クマはトウモロコシやリンゴも好きで、リンゴが全部やられて栽培をやめてしまった人もいる。成熟するまでに収穫する必要がある」といい、「家族が家から出る時に、まず玄関からフライパンでカンカンと音を鳴らしたり、笛を吹いたりすることもある」と話す。
鹿角市によると、事業期間は2年の予定で、近隣に配慮しながら重機などを使う費用を見積もると10万円はかかるとの想定から、補助の上限は5万円とした。申請する市民は主に郊外ではなく住宅地に暮らす。クマが来るので「何とかしてほしい」との声が多いという。
市の担当者は「大量に出没した昨年は、市内の柿や栗の木の相当数がクマに狙われた」と話す。「秋田の農村では、秋の食を豊かにしようと家の敷地内に柿や栗を植えることが昭和以前から一般的だった。だが近年は実を食べる人が減り、そこにクマが入り込んできている」といい、さらに「実を食べきれずに柿や栗を放置するようになってしまった私たちの暮らし方や、土地の使い方の整理がさらに必要な時期に来ている」と指摘する。【工藤哲】
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