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“年金の定期健康診断”ともいわれる、将来の公的年金の給付水準を試算する『財政検証』が公表されました。
『財政検証』では、今後100年間、年金制度の持続可能性が確保されたと評価されました。一方で、試算の元となる前提条件が、楽観的ではないかという指摘も出ています。

■“年金の定期健康診断”『財政検証』公表

今回公表された『財政検証』とは、年金制度が持続可能かを5年に一度点検する仕組みで、『年金の定期健康診断』といわれています。

財政検証とは この記事の写真は18枚

指標としているのが、所得代替率です。

所得代替率とは、『モデル世帯』の年金が、現役世代男性の平均手取り収入の何%にあたるかを示すもので、50%が健康の目安です。
『モデル世帯』は、厚生年金に40年間加入した65歳の夫と専業主婦の世帯です。

2024年度でみてみると、現役男性の平均手取りは37万円で、『モデル世帯』夫婦の年金支給額が22万6000円。所得代替率は61.2%です。

指標とするのが所得代替率

今回の財政検証での経済シナリオごとの所得代替率です。4つのケースに分かれています。

実質経済成長率が、
「高成長したケース」で所得代替率は56.9%
「成長したケース」で57.6%
「現状のまま横ばい」で50.4%
「マイナス成長したケース」は33.0〜37.0%
と、マイナス成長でなければ、所得代替率50%を維持できるとしています。 今回の財政検証 経済シナリオごとの所得代替率 林官房長官は、
「将来にわたって、所得代替率50%を確保できるということが確認された。今後100年間の公的年金制度の持続可能性が確保されている」としています。 林官房長官 明治大学大学院の田中秀明教授です。
「今回の検証結果は楽観的。(所得代替率)『50.4%』とは、いかにもやりくりした絶妙な数字だ」 明治大学大学院 田中秀明教授

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■財政検証 なぜ改善?前提条件に“甘さ”指摘も

■財政検証 なぜ改善?前提条件に“甘さ”指摘も

そもそも年金の財源は、「積立金」が約1割、「国庫負担」が約2割、「保険料収入」が約7割です。

そもそも年金の財源は

見通しが改善した要因の1つ目です。
高齢者や女性の労働参加が増え、年金の保険料収入が増えました。

改善した要因(1)年金の保険料収入が増加

見通しが改善した要因の2つ目は、年金積立金の運用の好調です。

年金の積立金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の2001年度以降の累積収益額は年々増加して、2023年度の運用収益額は、過去最大の45兆4153億円の黒字。 積立金の運用が好調です。

改善した要因(2)年金積立金の運用の好調

ただ、試算の前提条件が楽観的だという指摘があります。
合計特殊出生率は、2023年、過去最低の1.20でしたが、今回の財政検証では、将来の出生率を1.36で計算しています。

合計特殊出生率

そして、実質賃金は、直近の2024年5月、マイナス1.4%で、過去最長の26カ月連続のマイナスでしたが、将来の実質賃金上昇率を、現状横ばいのケースで、年換算プラス0.5%で計算しています。

実質賃金 立憲民主党の長妻政調会長は、
政府の試算は楽観的すぎる。所得代替率が50%を超えるように逆算して作っているのではないか」と指摘しています。 立憲民主党 長妻政調会長

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■国民年金 “5年延長案” は見送り「批判一掃できず」

■国民年金 “5年延長案” は見送り「批判一掃できず」

国民年金の納付期間を5年延長する案です。

国民年金保険料の納付期間は、現在20歳から60歳までの40年間ですが、これを20歳から65歳までの45年間にする案です。

保険料の支払額が増える代わりに、給付額も増えるというものでしたが、この“5年延長案”が見送られました。

国民年金の納付期間“5年延長案”

5年延長が見送られたことについて、

厚労省の年金局長は、
苦渋の判断をした。健康寿命の延伸を考えれば、最も自然な方策であり、政策手段として否定されるべきではない」としています。 厚労省の年金局長(当時)の答弁 明治大学大学院の田中教授です。
「年金局長の答弁を読むと、官邸から『負担増は許されない』と言われたと読み取れる。選挙が近づいているので、負担増を自民党がやれば許されないとなるので、見送られたのでは」
国民年金を満額払っている人は半分もいない。国民年金だけの人にとっては、延長しても意味はない」 明治大学大学院 田中教授

今回の財政検証での最悪のシナリオで、国民年金はどうなるのでしょうか?

実質賃金上昇率が0.1%、実質的な運用利回りが1.3%、実質経済成長率がマイナス0.7%という前提です。
国民年金は、2024年度は夫婦で月13万4000円ですが、2059年度には月11万3000円に。月2万1000円減ることとなっています。

35年後の積立金については、2059年度に枯渇し、完全な賦課方式に移行します。 現行の年金制度が成立しなくなる可能性を示唆しています。

財政検証結果“最悪のシナリオ” 田中教授です。
「最悪のケースになった場合でも、マクロ経済スライドが働けば、年金制度は維持される。ただし、所得が低い人が多く、加入する国民年金が削られていき、結果、高齢者の貧困が増えるのが極めて問題」 明治大学大学院 田中教授

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■年金生活 100年本当に安心?高齢夫婦は月約4万円赤字

■年金生活 100年本当に安心?高齢夫婦は月約4万円赤字

実際に年金生活をしている人の不安です。

2023年の家計調査です。
65歳以上の夫婦で無職世帯の1カ月の平均家計収支は、支出が28万2497円。
一方、収入は年金などで24万4580円。毎月3万7916円不足していて、年間約45万円の赤字です。

1カ月の平均家計収支

年金生活者の声です。

80歳の女性は、毎月約5万円、国民年金を受給しています。
「自営業だったので、夫も早くに亡くなって、全然足りない。2倍くらいないとやっていけない

80歳の男性は、毎月約7万円、国民年金を受給しています。
「一日1食です。家賃払うと残るのが1万2千〜3千円。1カ月生活できない。食べたいものも買えない。ふりかけ、納豆ぐらい」

85歳の男性は、毎月約20万円、厚生年金を受給しています。
「足りてない。家のローンや借金がある。葬式代だって残さないといけないし」

87歳の男性は、毎月約35万円、厚生年金を受給しています。
「15歳から働いて、80歳まで働いた。60歳で定年退職していたら、ヒイヒイ言っていたと思う」 実録 年金生活者の声

(「羽鳥慎一 モーニングショー」2024年7月11日放送分より)

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・5年に一度の年金制度改正 “主婦(主夫)年金”見直し提言…厚生年金“拡大”論も・国民年金支払い期間 40年から45年に延長?「99万円負担増」試算も…受給額は?・利用率低迷の「マイナ保険証」 未所持で“診察後回し”トラブル 法的問題は?・健康診断 何がわかる?結果の見方・深睡眠不足で認知症リスク上昇 睡眠の質上げるには?

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