人気漫画の海賊版サイト「漫画村」(閉鎖)による漫画の不正公開で出版社に損害を与えたとして、サイトの元運営者に約17億円の賠償を命じる判決が18日、東京地裁で言い渡された。漫画村を巡っては、今回の訴訟に先立ち、元運営者が著作権法違反罪などで実刑判決を受けて服役。最盛期には月間約1億回のアクセスを数えるなど、「史上最悪」といわれたサイトを操ったことに関し、刑事と民事双方で責任を問われた格好だ。ただ、漫画村閉鎖後も同種サイトは後を絶たず、被害は膨らみ続けている。
「収益構造、根底から破壊」
漫画村は平成28年ごろに開設。29年9月からの半年間で推計3200億円の被害が出るなど、社会問題化した。危機感を募らせた出版業界は同年、複数社が容疑者不詳で刑事告訴。30年、政府が名指しで悪質だと指摘した直後に閲覧できなくなり、閉鎖された。
元運営者は令和元年7月、フィリピンにいたところを同国の入国管理局が身柄拘束。福岡県警などの合同捜査本部が同年9月、日本への空路移送中に逮捕した。
令和3年6月、福岡地裁は、元運営者が集英社の人気漫画「ONE PIECE(ワンピース)」や「キングダム」の画像データをサーバーに保存して無断でネット上に公開、作者や出版社の著作権などを侵害したと認定。広告収入によって利益を得る漫画村の仕組みを考案するなど「最も重要な役割を果たした」「我が国における著作物の収益構造を根底から破壊しかねない犯行」とも指摘し、懲役3年、罰金1千万円、追徴金約6200万円の実刑を言い渡した。
元運営者側、検察側とも控訴せず、同月中に判決が確定。一方、元運営者は服役を終えた昨年9月、再審請求する方針を表明した。控訴をしないで判決が確定した後に再審請求することは異例だが、元運営者は「勾留中にパソコンの利用を禁じられ、無罪を証明する証拠集めができなかった」と説明。漫画村のシステムは当時の法律では禁止されていなかったなどと主張している。
漫画村アクセス数を超過
4年7月には、出版大手3社が元運営者を相手取り、今回の損害賠償請求訴訟を東京地裁に提起。3社は代理人弁護士を通じ、「漫画村の犯罪収益モデルは同種サイトに大きな影響を与えた。刑事罰に加え、民事的にも責任が追及されるべきだ」とコメントしていた。
コメントが指摘したように、漫画村閉鎖後も、後継サイトは続々と出現。出版物の海賊版対策に取り組む一般社団法人「ABJ」によると、海賊版サイトは約1千件(4年時点)あり、このうち英語に翻訳されたものが約430件(同)と最多だが、日本人向けも約170件(同)に上る。
日本からのアクセスが多い上位10サイトの分析では、2年5月に、漫画村の最盛期を超える月間1億234万回のアクセス数を計上。新型コロナウイルス禍で在宅時間が増えたことが一因とみられ、3年10月には月間4億90万回に達した。ABJの試算では、こうしたサイトによる「タダ読み」被害は、年間約1兆19億円(3年)に上るなど、膨れ上がっている。
「短時間消費」傾向、被害拡大の一因
著作権法違反の事案では、対象は漫画にとどまらず多様化しており、近年は映画の内容を短縮した「ファスト映画」の被害も目立つ。
本編の映像や静止画を使用し、字幕やナレーションを用いて映画の内容を10分程度で紹介したもので、さまざまなコンテンツを短時間で消費する傾向や、コロナ禍の巣ごもり需要を背景に、動画投稿サイトで目立つようになった。
再生回数に応じて得られる広告収益目的の投稿が大半とみられ、著作権侵害だと問題視されるようになり、推定被害総額(3年6月段階)は950億円超。4年11月~5年8月には、「シン・ゴジラ」などをユーチューブに投稿され著作権を侵害されたとして、東宝などの映像会社13社が、男女3人=いずれも著作権法違反罪で有罪確定=に計5億円の損害賠償を求めた訴訟の判決が東京地裁であり、請求通り計5億円の賠償を命じている。
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