政府は12日の閣議で2024年版防衛白書を了承した。大陸間弾道ミサイル(ICBM)級の弾道ミサイルや「軍事偵察衛星」の発射を重ねる北朝鮮の動向について、「装備体系の多様化や核・ミサイル運用能力を補完する情報収集・警戒監視・偵察手段の確保など質的な意味での能力向上に注力している」と分析。昨年に続いて「従前よりも一層重大かつ差し迫った脅威」と位置づけた。
日本周辺については、東・南シナ海で活発な活動を続ける中国を念頭に、昨年に引き続き「力による一方的な現状変更の試みは国際秩序に対する深刻な挑戦」と指摘。国際社会は「戦後最大の試練のときを迎え、新たな危機の時代に突入しつつある」と述べた。その上で「ロシアによるウクライナ侵略と同様の深刻な事態がインド太平洋地域、とりわけ東アジアで発生する可能性は排除されない」と初めて明記した。
中国の軍事動向は、昨年に続いて「これまでにない最大の戦略的挑戦」との表現を踏襲。23年は尖閣諸島周辺の接続水域での中国海警船の活動日数、船舶数が過去最多になったことや、中国軍の艦船が太平洋側にも進出していることに触れ、「わが国周辺海空域における活動を拡大・活発化させており、行動を一方的にエスカレートさせる事案もある」と警戒感を示した。
台湾海峡を巡る情勢についても、中台の軍事バランスが「全体として中国側に有利な方向に急速に傾斜する形で変化」していると分析。中国側の活動で「中台間の軍事的緊張が高まる可能性も否定できない」と追加した。
ロシアの軍事動向に関連し、北朝鮮からロシアへ弾薬やミサイルが供与され「23年年末~24年年始にかけてウクライナで使用された」と指摘。中露関係についても、爆撃機や艦艇の共同飛行・航行や演習への相互参加などで「中国との戦略的な連携と相まって安全保障上の強い懸念」とした。
防衛力強化については、防衛力整備計画の初年度である23年度の進捗(しんちょく)説明を拡充。27年度までの5年間で43・5兆円を確保するとしている防衛費は、24年度当初予算までに計42%を計上したと説明した。
政府は今年3月、英国やイタリアと開発する次期戦闘機を第三国に輸出できるようにするため、共同開発した完成品をパートナー国以外に輸出できるよう防衛装備移転三原則の運用指針を改正した。白書で国会審議での主要論点を紹介しながら「英国とイタリアは完成品の第三国移転推進を我が国に求めている。第三国への直接移転の仕組みがなければ、わが国が求める戦闘機の実現が困難になる」と強調した。
24年度末に予定する統合作戦司令部の創設についての項目を新設。陸上、海上、航空の3自衛隊にサイバーと宇宙も含めて「平素から領域横断作戦の能力を錬成することができる。統合運用の実効性が向上する」と説明した。【中村紬葵】
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