きっかけはマッチングアプリだった。そこで知り合った女性に誘われ、警視庁に摘発された連鎖販売取引(マルチ商法)グループに現金を払ってしまった。
東京都の会社員男性(24)は当時、専門学校を卒業して就職活動中だった。「悩みを相談できる人がいてくれたら」と使ったのがマッチングアプリ。すると、「看護系の専門学校に通っている」という同い年の女性と会うことになった。
新宿区のパンケーキ屋で待ち合わせた女性は、アプリの写真の通り笑顔が魅力的だった。趣味などの話をするうちに、女性は自らが通う「ビジネススクール」の話をしてきた。
「月に何千万円も稼ぐ社長がいる」「セミナーだけでなく、バーベキューとかのイベントもあって、若い人が大勢いる」。女性は熱心に勧誘してきた。
女性に好意を抱いており、さらに詳しく話を聞くことにした。
数日後、新宿区の喫茶店で会った女性の隣には、スーツ姿の30代くらいの男性がいた。男性は、スクール内で女性が所属するグループの「リーダー」と自己紹介をした。
「人工知能(AI)に仕事を奪われる」。リーダーの男性はスクールへの入会を勧めてきた。ひとしきり話したリーダーがトイレに立つと、女性は「どうだった」と感想を求めてきた。
リーダーが席に戻ってくると、その場で入会契約を結ぶよう求められた。42万9000円の入会費用にためらった。だがリーダーから「今日入らないとモチベーションがなくなっちゃう」「すぐに元が取れるから、消費者金融で借りたらどうか」と畳み掛けられた。
結局、男性は消費者金融3社から入会費用分を借金し、3日後に契約を結んだ。その際、リーダーは「他の人をスクールに紹介して入会したら、10万円の報酬がある」と説明した。
スクールのセミナーは週3回、新宿区内の会議室などで開かれた。学生らが30~40人集まり、金融取引や入会者の勧誘方法について講義を受けた。勧誘に成功した会員の表彰もあり、男性は「誰かを誘わないといけない」と焦った。
「アポが取れました」。男性が、リーダーたちにLINE(ライン)を送ったのは入会から3カ月後のことだった。友人の男性を誘い、リーダーに引き合わせた。だが、入会契約を切り出すタイミングなどの手順は自分の時と同じだったため、不信感が芽生えた。
友人は入会した。リーダーたちから褒められ、10万円も振り込まれた。でも「友人を巻き込んでしまった」と後ろめたさを感じた。
しばらくして、最初に自分を勧誘した女性から呼び出された。女性からセミナーを抜けたと告げられ、「このビジネスはやめた方がいい」と言われた。その言葉でやっと目が覚めた。
セミナーには行かず、関係を絶った。消費者金融の借金の返済には3年弱かかった。「知らなかったとはいえ、マルチ商法に加担してしまった」と悔やんでいる。【加藤昌平】
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