糠平トンネルに向かう自動運転バスの車内。自動運転中の表示があり、運転席の背面に走行状況を示す画像も映っている=上士幌町で2024年7月8日午後2時27分、鈴木斉撮影

 公道で自動運転バスの定期運行を行っている北海道上士幌町が新たな試みを始めた。通信環境が不安定なトンネルに移動基地局車から電波を送り込み、自動運転の安定性を確認する実証試験だ。安全な走行が確認できるのかどうか。注目が集まる。【鈴木斉】

 試験が行われているのは町の中心部から約25キロほどの山間部。ぬかびら温泉郷付近のトンネルで、8日から約10日間にわたって、試験用の自動運転バスを繰り返し走行させ、適正な電波の照射方向や強度などを調べる。

 町の自動運転バス事業を支援するソフトバンク子会社のBOLDLY(ボードリー、東京都)などが実施。将来的に町の中心部だけでなく、温泉郷への路線拡大も見据え、電波不感エリアが多い山間部のうち、特に電波が届きにくいトンネルの通信環境の対策を検討するのが狙いだ。総務省の地域デジタル基盤活用推進事業として取り組む。

糠平トンネルから出てくる自動運転バス。歩道上に止まっているのが移動基地局車だ=上士幌町で2024年7月8日午後2時59分、鈴木斉撮影

 8日は、温泉郷に近い糠平トンネル(全長464メートル)の出入り口そばに移動基地局車を停車。バスの車体に設置されたセンサーやカメラによる位置情報の映像などが移動基地局車を経由して、町の中心部にある監視センターに送信され、遠隔監視システムが的確に機能するかどうかを確認した。

 試験は運転者が同乗し、状況に応じて手動運転に切り替える「レベル2」で行った。トンネルを含む試験区間は時速約30キロで走行。車内は、リアルタイムで自動運転か手動運転かの状況が表示され、バスの位置と走行の安全性、対向車や追い越し車両の動きなどが分かる走行環境の画像も通常どおりに示されていた。BOLDLYの佐治友基社長は「電波状況は良好。監視システムも機能した」と手応えを感じた様子だった。

 今後は、近くの不二川トンネル(同482メートル)も含め、移動基地局車のアンテナの向きや電波強度などを詳細に検証するという。バスに試乗した竹中貢町長は「市街地から離れた山村地域でも安心してバスに乗れるように取り組みを進めたい」と話した。

 上士幌町は高齢者らの移動手段を確保しようと、2017年9月に自動運転バスの実証試験を始めた。22年12月からは市街地の二つの循環ルートで、バスに乗車したオペレーターが交差点などで手動運転に切り替える「レベル2」による定期運行を続けている。24年5月に北海道運輸局が2ルートの一部区間(約630メートル)で、手動操作が介在しない「レベル4」の走行を道内で初めて認可した。

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