新潟や日本のお米を守りたい――。新潟県内は2023年8月に“災害級”の猛暑に見舞われ、主力の「コシヒカリ」の品質は記録的な低水準となった。新潟大農学部の山崎将紀教授(51)は、暑さに強いコメの新品種開発や生産者向けの栽培対策の確立を急ぐ。研究資金として300万円を募るクラウドファンディング(CF)に挑戦中だ。【神崎修一】
「コシヒカリに比べたら、少し草丈が高いですね」。梅雨入り直前の6月中旬。新潟市西区にある新潟大農学部の研究農場で、作業着姿の山崎教授はイネの生育状況を注意深く確認していた。視線の先には暑さに強いコメの新品種の候補である「RILX(リルエックス)」があった。作物学が専門の山崎教授が、コシヒカリと29品種のイネを交配して育てた3567種の中から選抜した有望種だ。
リルエックスは昨夏のような過酷な環境下でも、整粒率(形が整った米粒の比率)が57・6%と高水準なのが特徴だ。県産米の約6割を占めるコシヒカリの13・6%を大きく上回った。地球温暖化に対抗できるイネの新品種候補として、栽培や研究を本格化させながら、3年後の品種登録を目指している。
23年は穂が出る8月に乾いた高温の風が吹くフェーン現象が発生し、新潟市内は平均気温が全国トップとなるなど災害級の猛暑に見舞われた。コメの生産や品質に大きく影響し、最も品質の良い「1等米」の比率は県産コシヒカリで4・7%と記録的な低水準となった。新潟地方気象台は24年8月について「平年より気温が高い確率が60%」と予報し「昨年同様の暑さとなるリスクがある」(山本浩気象情報官)と注意を呼びかける。
いくつも研究資金申請したが…
コメの高温対策が急務だと感じた山崎教授は、新品種の開発と生産者の栽培対策への研究を加速させようと、自ら資金を集めるCFへの挑戦を決めた。山崎教授は「いくつも(研究資金を)申請したが通らなかった。研究資金がもっとほしいという面もあるが、私たちの研究をもっと一般の方たちにも知ってほしいという狙いもある」と強調する。研究を広くアピールし普段は伝わりにくい市民からの反応が得られることが、研究の励みになるという。CFサイト「READY FOR(レディーフォー)」で8月8日まで実施し、目標は300万円。資金は人件費や物品購入費として活用する計画だ。
開始から3週間後の7月1日現在で約180万円の支援が集まり、スタートダッシュに成功した。山崎教授は「おかげさまで順調に伸びている。絶対に(新品種が)必要となる日が来る。すぐ出せるように新品種を作りたい」と述べ、さらなる協力を求めている。
研究系のCF達成率86%
大学や研究機関などがCFを活用する動きが広がる背景には、研究資金の不足がある。文部科学省の科学技術・学術政策研究所によると、00年を1としたときの大学部門の研究開発費の指数は日本が19年で0・9だったのに対し、中国23・4▽韓国4・7▽米国2・6と諸外国との差が大きくなっている。
CFサイトを運営するレディーフォー(東京)によると、大学による学術研究関連のCFプロジェクトは16年ごろから始まり、19年に約6800万円だった支援金額は、23年は約6倍の4億2300万円まで急増した。プロジェクト数もこの5年間で5倍に拡大した。CFが研究の資金源になるとの認識が広がったためだ。
一般的なCFの達成率が20~40%とされるのに対し、研究系は86%と高いのが特徴だ。同社の広報担当の佐藤友紀さんは「医療系や理工学系などロマンあふれる研究テーマには、市民の関心が非常に高い」と説明する。信州大が5月、クジラの化石を発掘、研究する費用を募った事例では開始からわずか12日後に目標の320万円を達成したという。
同社は新潟大を含め国内約70の大学と提携を結ぶ。資金を募る研究者らに対し、戦略立案やPRの専門チームが「伴走支援」する体制を整える。佐藤さんは「研究開発から事業化まで長い時間がかかり、多種多様な資金源が必要になる。公的な資金だけでなく、民間の資金も必要だ。研究活動が形になるよう支援を続けたい」と話した。
学術研究関連のCFの主な事例
・昭和大学病院 遺伝性乳がんの発症前に寄り添う、検診と予防治療の臨床研究継続へ(寄付総額:約5425万円)
・九州大 三毛猫の毛色をつかさどる遺伝子を解明したい!~60年間の謎に挑む(寄付総額:約1068万円)
・熊本大 おいしくて安心なお刺身を食卓へ~アニサキスの撃退方法(寄付金額:約1412万円)
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