育児に役立つとして、保育園が子どもの遺伝子検査を保護者に勧める動きがある=ゲッティ(画像はイメージ)

 神奈川県に拠点を置く保育園の運営会社が、子どもの知能などを調べる遺伝子検査キットを保護者らに配り、検査結果を保育に活用しようと計画していたことが判明した。こうした遺伝子検査は科学的根拠が薄いとして専門家から疑義が示されているが、育児などへの利用が一部で広がっている可能性がある。

 子どもの遺伝子検査を巡っては、東京都内にある別の保育園運営会社が保護者らに検査を勧め、3割が応じていたことが毎日新聞の取材で明らかになっている。

数十人に無料で検査キット配布

 今回、検査キットの配布が判明したのは神奈川県と東京都で10以上の私立保育園を運営している会社。社長によると2022年ごろ、東京都内に研究施設をもつ別の企業から、遺伝子検査の話が持ち込まれた。

 その企業と提携し、保育園の独自サービスとして、子どもの遺伝子検査を保護者らに提案してはどうか、という話だった。

 検査では子どもの知性や認知能力、記憶力、注意力、勇気、ストレス耐性などを調べられると説明。保護者は子どもの唾液を採取して検査キットを送付し、検査結果のリポートを受け取る仕組みだった。

 保育園側は試験的に、希望する保護者ら数十人に無料で検査キットを配った。その後、有料で販売することも検討していたが、提携企業の経営上の問題で中止になったという。

 実現はしなかったものの、保護者から検査結果を提供してもらい、保育内容の向上に生かすことも計画していたという。

社長「目安にできるのではと期待した」

 運営会社の社長は取材に「子どもの英語能力を高めるほうがいいのか、(音楽に合わせて体を動かす)リトミックをやった方が効果があるのか、などと迷った場合、検査結果を目安にできるのではないか」と期待していたことを明かした。

 ただ、遺伝子検査は究極の個人情報であり、他の目的には使わないという誓約書を保護者と交わすことを考えていたという。

 医療機関が用いる遺伝子検査と異なり、消費者向けの遺伝子検査ビジネスには法的規制がない。国内で個人向けの遺伝子検査を実施する事業者でつくる一般社団法人「遺伝情報取扱協会」は、自主基準で検査対象を原則、成人に限定するよう求めている。

 遺伝医学が専門の福嶋義光・信州大特任教授は「才能を調べる遺伝子検査に科学的根拠はない」と指摘している。【原田啓之】

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