公立高校の入試を巡り、中学校が提出する内申書から出欠記録の欄を削除する動きが出ている。背景には、家族の世話や介護をするヤングケアラーの存在など、子どもを取り巻く社会問題がある。「休まないのが美徳」の時代は変わりつつあるようだ。
岐阜県教育委員会は2025年度の公立高入試から「欠席記録」の欄を廃止すると決めた。見直しのきっかけは、文部科学省が23年6月、各教育委員会に出した通知。内申書に出欠記録の記入欄を設ける場合、体調不良など本人の責任によらない欠席が不利にならないよう配慮を求めた。
子どもたちの間にここ数年、ひどい痛みを伴う月経困難症や新型コロナ罹患(りかん)後の体調不良などの問題が表面化。ヤングケアラーや不登校の子どもたちへの支援も全国的な課題となっている。
今回の対応について岐阜県教委は「学校や社会の時代の変化に対応した」と説明する。欠席数を気にして体調不良でも無理して登校したり、保護者が出席を強いたりする懸念も理由に挙げた。
文科省の調査によると、23年度入試の時点で全国では、東京都、神奈川県、大阪府、奈良県、広島県が出欠記録欄を廃止している。
愛知県では24年度から、公立高入試にネット出願を導入した。県教委によると、「デジタル化に合わせ内申書の記入事項を見直してはどうか」という意見が有識者会議で出され、欠席記録の欄が俎上(そじょう)に上った。中学校と保護者団体の関係者から「頑張っている子どもを認めてあげてほしい」という声が上がり、残すことに決まったという。ただ、県教委の担当者は「時代の流れや変化は早い。状況に応じて検討を続けていきたい」と話す。
一方、三重県教委は今のところ特に検討していない。「欠席数だけで評価を決めているわけではないので」と説明する。
名古屋大大学院の石井拓児教授(教育行政)は「そもそもこれまで、学校を休まず頑張ったということが入試の評価対象になっていたのでしょうか」と疑問を投げかける。「そうしたことも定かでないのに、欠席数を内申書に書かれることで子どもや保護者が追い詰められ、つらくても休めない実態があるなら、やめた方がいい」と指摘する。【太田敦子】
内申書
高校入試のための資料として、中学校が作成する「調査書」のこと。文部科学省は「学力試験で把握できない学力や、それ以外の生徒の個性を多面的にとらえ、生徒の優れている点や長所を積極的に評価し、活用していくという趣旨のもの」と位置づけている。記載事項は各教育委員会が決める。各教科の学習▽生徒会などの特別活動▽スポーツ・文化・社会活動▽ボランティア――などに関する記録を記入させるところが多い。
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