お菓子や飲料を色鉛筆でリアルに描いた作品が投稿されたSNS(ネット交流サービス)に、「写真かと思った」などと驚きのコメントが並ぶ。作者の慧人さん(21)が色鉛筆画を始めたのは、不登校だった中学3年の時。「気持ちをぶつける場所」を求めて描き始めた作品は話題を呼び、本の出版や個展の開催など活躍の場を広げている。【木村綾】
グラスに入った紅茶にしぶきをあげて勢いよく注がれるミルク――。おなじみの「リプトン ミルクティー」の紙パックのデザインだが、「ファンが手で描いたイメージ図です」という注釈がある。40色ほどの色鉛筆を使い、ロゴや「賞味期限」の文字まで描いた。2024年3月、商品の発売40年を記念して作られた数量限定のパッケージで、慧人さんの作品であることがX(旧ツイッター)で明かされ話題になった。
現在も身近なものを題材に、色鉛筆で写真のようなリアルな絵を描き、SNSで発表している。Xのフォロワー数は6万7千人を数える。
中学3年の頃、朝起きられず、学校に通えなくなった。診断名は「起立性調節障害」。自律神経の不調からだるさや立ちくらみに襲われ、受験勉強もろくにできなかった。「何か気持ちをぶつける場所を」ともがいていた時、ツイッターで目にしたのが、色鉛筆で描かれた宝石の絵だった。投稿者に画材を聞き、油性の色鉛筆を買って見よう見まねで始めた。
「同級生に見てもらえたら」と軽い気持ちでツイッターに絵を載せると、思いがけず1万件近い「いいね」が付いた。「学校に行けず、友達にも会えず、しんどい時に、多くの人に見てもらえるものがあって、(投稿を)楽しみに待ってくれている方がいた。気持ちの晴らせる場所を見つけて、のめり込んでいきました」。一つの作品にかける時間は35時間ほど。10時間以上描き続けることもあるが「大変だとは全く思わない」。描いている時間は楽しく、症状も少しずつ良くなった。
得意とするのは、写実的な立体絵だ。500~600色の中から近い色を探しだし、時に数色を混ぜ合わせ、本物の色や質感を表現する。ペットボトルの透明感まで忠実に再現したコカ・コーラの絵がバズり、テレビにも出演した。白い紙に置かれたファンタ缶を指で転がすと、その下から再びファンタ缶が現れる――といったトリック動画も話題だ。実寸大の絵の上に「本物」を重ね合わせたら「面白いかも」と思いついた。商品を描いてほしいという企業からの依頼も相次いだ。
23年には「色鉛筆で写真のような絵が描けるようになる本」(SBクリエイティブ)を出版。東京・銀座で初の作品展も開いた。11月から静岡県の美術館で個展を開催予定で、製作に精を出す。
不登校だった頃を振り返り、色鉛筆画に「助けられた」という慧人さん。「ひたすら絵を描くことを母親が許してくれたから、今がある」と語り、不登校で苦しんでいる子がいたら、周囲は好きなことを後押ししてあげてほしいと思う。「絵の仕事をずっと続けていきたい」と笑顔を見せた。
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浜松市の平野美術館で11月2日~12月22日、特別展「慧人―色鉛筆で生み出すリアル―」を開催予定。
けいと
2003年、大阪府生まれ。15歳で色鉛筆画を始める。X(@Yassun0222K)やインスタグラム(@yassun0222K)で作品を公開中。
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