「こんなに連絡がないのは、おかしい」――。5月20日の朝のことだ。石川県輪島市の40代の男性は、嫌な予感に襲われた。市内の仮設住宅で1人で暮らす70代の母との連絡が3日前から途絶えていたからだ。
午後、安否確認に向かった。玄関は鍵がかかっていて中に入れない。窓をたたきながら「お母さん」と何度も呼んだが、返事はない。警察官を呼んで室内に入ると、母は息絶えていた。県警などによると、死因は脳出血。能登半島地震被災地の仮設住宅では、初の孤独死とみられる。
母が仮設に入ったのは4月中旬。独居だった自宅は地震で大規模半壊となった。県内に住む長女のもとへの避難を経て、母自ら仮設暮らしを選んだ。男性は「子どもらに迷惑をかけたくなかったんだろう」と推し量る。
この仮設住宅群には約154戸あり、同じ集落の住人がまとまって入居した。「顔見知りや話し相手もいるので、母には良かったのでは」。ただ、母の足が悪かったこともあり、男性は週2回ほどは様子を見に行き、こまめに電話もした。最後に母に会ったのは、5月11日ごろ。仕事終わりに仮設に寄り、被災した自宅の公費解体の手続きなどの話をした。体調が悪いようには見えなかった。
17日に母宅をのぞいた時、施錠され、チャイムを鳴らしても、電話をかけても応答がなかった。窓越しにテレビがついているのがうかがえた。「寝ているのかな」と思い、そのまま帰った。「あの時、無理にでも中に入っていれば、助かったのかも」と悔やむ。
いまだ、心の整理がつかない。「孤独死ではあるけれど、僕ら親族が何もしなかったように聞こえるのは嫌やなというジレンマがある」。状況から災害関連死と認定される可能性もあるが、まだ手続きに踏み切れない。「(心に)もやもやがあって……。やろうと思えば、書類を書くだけなんですけどね」と、唇をかんだ。【水谷怜央那】
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