東京高検検事長に就任し、記者会見をする黒川弘務氏=東京都千代田区霞が関で2019年1月21日、遠山和宏撮影

 東京高検検事長だった黒川弘務氏の定年を延長した政府の閣議決定(2020年1月)を巡り、法務省が作成した関連文書の開示の是非が争われた訴訟の判決で、大阪地裁は27日、国の不開示決定を取り消した。徳地淳裁判長は閣議決定の根拠となった法解釈の変更について「黒川氏の定年延長が目的だったと考えざるを得ない」と述べた。

 政府はこれまで、法改正の過程で解釈変更し、黒川氏の定年延長についても「恣意(しい)的ではない」と説明してきたが、これらを否定する司法判断となった。

黒川氏の定年延長から提訴に至るまで

 検察官の定年は63歳(トップの検事総長は65歳)とされてきたが、政府は20年1月、1週間後に退官を控えた黒川氏の定年を半年延長すると閣議決定した。政府は従来、国家公務員法の定年延長規定は検察官に適用されないとしてきたが、法解釈を変更して黒川氏に適用。政権に近い黒川氏を検事総長にする人事だと野党が追及した経緯がある。

 神戸学院大の上脇博之教授は法務省が黒川氏の定年延長に向け、解釈変更を検討する際に作成した文書を情報公開請求した。法務省は一部を除いて不開示としたため、上脇氏が提訴。訴訟で国側は文書の存在自体は認めたが、「法改正の検討段階で作成した」と述べるにとどまり、黒川氏の定年延長が目的ではないと主張してきた。

判決のポイント

 判決はまず、解釈変更や閣議決定の経緯を検討した。法務省は19年12月から1カ月程度で解釈変更を決定。関係機関と8日間で調整し、その5日後には政府に閣議決定を求めていた。閣議決定は黒川氏の退官予定日の7日前だった。

 解釈変更の必要性について「直ちに変更すべき社会経済情勢などの変化があったと考えがたく、捜査現場からの要請なども見当たらない」と指摘。定年延長が全国の検察庁に周知されず、他に適用された検察官がいないことも踏まえ、「短期間で解釈変更した理由は、合理的に考えて黒川氏の定年延長しかあり得ない」と述べた。

 そのうえで、法務省が保有する解釈変更などの検討文書について、上脇教授が開示を求めていた黒川氏の定年延長を目的とした文書に該当すると認め、不開示決定は違法だと結論付けた。

 黒川氏は新型コロナウイイルスの感染拡大に伴って緊急事態宣言が出る中で賭けマージャンをしていた問題が発覚し、定年を待たずに辞職している。【土田暁彦】

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