福岡県警は6月、訪問購入名目で県内の高齢者宅を訪れ、貴金属を盗んだとして福岡市中央区の男性(31)を窃盗容疑で逮捕した。その男性からネックレスを盗まれた県内の女性(78)が取材に応じ、被害の状況を語った。全国で訪問購入を巡るトラブルが相次いでおり、県警が注意を呼びかけている。【河慧琳】
78歳女性「悔しくてたまらない」
「100円札はありませんか」。2023年12月の昼過ぎ、一人暮らしの女性が自宅の勝手口にいたところ、旧紙幣の100円札が大量に入ったビニール袋を手にしたスーツ姿の男性がそう声をかけてきた。
男性を玄関に通すと、男性は近くにあった有田焼を褒めてきたので、女性は「見る目がある」という印象を抱いた。「査定をする人なの?」。女性が尋ねると、男性は「はい」と答えたという。
何も売るつもりはなかったが、査定だけならと、金製の眼鏡やダイヤ付きの金のネックレスなどを見せた。すると、男性は目の色を変えて眼鏡を手元に抱え込んだ。「返して」。女性がこう抵抗しても男性は眼鏡を手放さず、1万円札を女性に無理やり押しつけて立ち去った。ふと我に返ると、ネックレスもない。約25年前、亡き夫との静岡・熱海旅行で初めて着けた思い出の品だった。
時間はわずか30分に思えた。男性はかたくなに名前も会社名も名乗らず、訪問購入時に必要な書面の交付もなかった。不審な点は多かったが、紳士的な容姿もあって招き入れてしまった。
女性は「悔しくてたまらない。私みたいにだまされて泣き寝入りしている人もいると思う。声をあげてほしい」と訴えた。
県警によると、男性は「日中の高齢者宅を狙っていた」と供述。男性は4、5人の窃盗グループの1人とみられ、車で住宅街に向かって住宅を個々に訪問し、強引な買い取りや窃盗を繰り返したとみている。同様の被害は県外でも起きており、グループ内の別の男性は5月、熊本県警に窃盗容疑で逮捕され、その後、起訴された。
貴金属を強引に「押し買い」 トラブル急増
国民生活センターによると、訪問購入を巡る全国のトラブル相談件数は2021年度6924件、22年度7722件、23年度8592件と増えており、相談の多くは「押し買い」が目立つという。
同センターの担当者は「不要な皿や服を買い取ると言いながら、実際は貴金属を強引に買い取る手法が多い。19年ごろから金相場の価格が上昇したことで、トラブルが増えているのではないか」と分析している。
県警生活経済課は、▽クーリングオフの説明がない▽名刺を渡さない▽売らないと言っても長時間居座る--などを注意点として挙げる。県警は「業者名を名乗らないといった怪しい人物に気をつけてほしい」と注意を呼びかけている。
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。