世界で生まれる新薬の7割が日本で使えない事態となっています。21日、閣議決定された「骨太の方針」で、政府の対策が盛り込まれましたが、問題はどこにあるのか、取材しました。
■世界の新薬の7割が使えない
病気に苦しむ人々が一番訴えたいこと。
肺腺がんを患った男性(42)
「薬が一つでも多いことは、命に直結した」
海外では日々、新しい薬が誕生しています。ただ、その7割は日本では承認されていません。
男性は35歳で「肺腺がん」と診断されました。
肺腺がんを患った男性
「まさか30代にがんにかかるとは本当にショックを受けましたし、診察室で告知を受けた後は泣き崩れて」
「(Q.一番の不安は?)生まれて間もない次男が1歳だった」
子どもの成長を見守るため、男性はがん治療を始めますが、ある問題が起こります。
肺腺がんを患った男性
「薬はまだ保険診療として認められていなかった」
患っていたのは、特殊な肺腺がん。海外には治療薬があるものの、日本では未承認。そこで男性が志願したのが、この薬の治験でした。
肺腺がんを患った男性
「私の場合は、治験薬が本当によく効きまして、完全奏功という状態に至りがんが消失した」
新薬の投与で、男性は一命を取りとめましたが、共に闘っていたがん患者は。
肺腺がんを患った男性
「(新薬に)トライする前に症状が悪化。トライできずに亡くなった人も」
■「治験」のハードル高く…
なぜ、日本では、なかなか新薬が認められないのでしょうか。専門家は、2つの理由を挙げます。
大阪大学 感染制御学 忽那賢志教授
「日本は治験に参加すること自体、患者にとってハードルが高い」
新しい薬の承認に必要な臨床試験「治験」。日本は、海外に比べて参加者が集まりにくい構造にあるといいます。
大阪大学 感染制御学 忽那賢志教授
「海外に比べると日本は国民皆保険の制度があって、基本的にはほとんどの人が最善の治療を受けることができるので、治験に参加しなくても良いと思う人が多いのでは」
もう一つの理由が、治験が行われる環境。
大阪大学 感染制御学 忽那賢志教授
「日本には大規模な病院もあるが、様々な規模の病院が色んな所に分散されている。そこに患者も分散されるので、特定の病院でたくさん患者を集めて治験を行うことが難しい」
治験を巡る問題を、改善する動きもあります。
鎌倉市の病院の一室。パソコンで管理されているのは、この病院で治験を受けている人の情報です。
湘南鎌倉総合病院 治験支援室 鈴木章子係長
「タイムリーに同時に治験の情報が共有できるのは大変なメリット」
従来、治験者の情報は、製薬会社や医師らにメールや電話で伝えていて、情報の伝達に数日かかることが課題でした。
去年、実用化されたシステムに情報を入力すると、即座に製薬会社や医師らとウェブ上で共有することができます。
湘南鎌倉総合病院 治験支援室 鈴木章子係長
「情報の集約化が一つひとつの治験では小さくても、それがすべての治験に応用できれば、大きな波となるので、日本の治験の状況の改善に少しでもつながるのでは」
明るい兆しは、他にもあります。
今年1月、遺伝子の病気「早老症」の治療薬が、新たに承認されました。
大分大学医学部 井原健二教授
「唯一効果があるという薬。アメリカでは治療薬として使われていたが、日本でも使用できるようになった」
2020年にアメリカで承認され、3年余りで日本でも承認。異例の早さだといいます。
大分大学医学部 井原健二教授
「海外のデータをもとに大丈夫だと認めていただいた薬に関しては少しずつですけれども早く治療ができるような時代にはなっていると思う」
政府は今後、新薬の製造体制の整備などを進めていく方針ですが、患者に早く届くことになるのでしょうか。
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