2024年版三重県民手帳=津支局で2024年4月12日、山本直撮影

 「県民手帳」をご存じだろうか。自治体の統計情報のほか、観光名所や年中行事の紹介などを盛り込んだ「ご当地手帳」である。中には公共施設の割引パスポートが入っているものも。そんな県民手帳の発行を一度はやめたものの復活させた唯一の都道府県が三重だ。しかし、スマートフォンの普及による手帳利用者の減少で再び部数が減少、原材料費の高騰もあり苦戦しているという。

 各県の統計担当課の話を総合すると、県民手帳の歴史は昭和初期にさかのぼる。国勢調査の調査員たちが訪問先の人たちから、自治体の現状を逆に質問されるケースが多かったため、それに答えられるよう統計情報をまとめた手帳を渡したのが起源らしい。

 このため統計事業の推進を担う各地の統計協会が発行主体となってきた。

 三重が発行を始めた正確な時期は分からない。県統計課によると、確認できる最古は1977年のものだという。他県同様、県統計協会が発行していたが、協会が解散した上、インターネットの普及で需要が落ちたことから2005年版を最後に廃止した。

 ところが、県民から「なぜ、やめたのか」「地方文化の普及につながるのに」と復活の要望が寄せられ、13年ごろから再び発行できないか検討に着手。首都圏をはじめ県外でも一定の需要があると判断して15年版での復活にこぎ着けた。

 復活に当たっては民間に発行を委託していた7県に状況を聞くなど情報収集。県が監修し、県印刷工業組合が発行する形を取った。15年版は4000冊を発行。17年には1万冊の大台に乗せた。しかし、最近は右肩下がりで23年版7200冊、24年版はさらに減って6000冊になった。

 追い打ちをかけているのが、原材料費の高騰だ。特産の神宮スギを使ったしおりを付けたり、カバーにリサイクル素材の塩化ビニールを用いたりと工夫を凝らし、復活10周年の24年版は県立飯野高校応用デザイン科の生徒がカバーをデザインするなど特色を出している。

 だが、「これだけのコスト高だと『企業努力』では追い付かない」と関係者は嘆く。そうした事情を反映してか、毎日新聞が昨年各県に聞いたところ三重の1200円が最も高かった。

 最近では廃止する県が毎年のように出ているが、県統計課は「25年も出す方向で進めている」としている。

(左から)2023年版の滋賀、群馬、大分、静岡の県民手帳=西本龍太朗撮影

衰退に歯止めかからず

 県民手帳は2010年代半ばにブームを迎えた。16年12月、東京本社発行の本紙夕刊一面には「県民手帳ブーム ご当地情報満載! ゆるキャラに続き地域PR」という記事が載った。地域によってはひそかな「ベストセラー」になっているという内容だ。

 その記事によると、当時はもともと出していない東京、京都、大阪、兵庫と廃止した北海道、神奈川以外の41県で発行。じわじわ冊数が伸び16年版は全国で84万1400冊だったとある。ちなみに最多は長野の7万冊。雑貨チェーン「ロフト」には全国の手帳を集めたコーナーもあったという。

 ところが、スマホの普及と統計協会の解散で事情は大きく変わった。21年版で長崎、22年版で広島、23年版で滋賀、大分が相次いで廃止。毎日新聞が昨年、全ての県に尋ねたところ、23年版を発行したのは39県で、発行数は全国合計で約70万冊に急減していた。1位の長野は不動だが、こちらも冊数は5万5000冊に落ちていた。

 さらに福岡、和歌山の両県は24年版の発行をもって終了するとホームページなどで告知。衰退の傾向に歯止めがかかっていない。【山本直】

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