だまし取った現金を引き出す「出し子」のリーダー格とされる鈴木一樹容疑者を乗せた捜査車両=警視庁四谷署で2024年6月10日午後7時49分、森田采花撮影

 「スマートフォン一つで高額副収入」。静岡県に住む中年女性は2023年末、インターネットの広告に目を留めた。家計の足しに始めてみようか――。軽い気持ちで登録した「副業サイト」で、思わぬ被害に遭うとは想像すらしなかった。

 サイト内で知り合った男性の相談に乗れば、短期間で報酬が得られる。女性が登録したサイト「サポー」は、「副業」の内容をそう説明していた。実際、登録するとすぐに、チャット機能で「ナガノ」と名乗る人物からメッセージが届いた。

 ナガノ氏はIT企業に勤務する男性だと自己紹介した。「近く社長が創業者の孫娘に代わるのですが、ワンマンタイプで好きになれない。仕事を続けるべきでしょうか」。職場の人間関係の悩みを打ち明けられ、女性は「無理をしなくて良いのでは」と返信した。

 しかし、相談に乗ったのは最初の数回だけ。その後は「今お風呂に入りました」「ご飯を食べました」などと、意図の分からないメッセージが続いた。にもかかわらず、1カ月もたたないうちにナガノ氏から「お礼に50万円をお渡ししたい」と持ちかけられた。

 ナガノ氏の指示で住所をチャットすると、突然、サイト管理者から「個人情報を送るのは規約違反。違反金を支払ってください」とメッセージが届いた。

 違反金を銀行口座に振り込んだが、その後も何かと追加の利用料を求められた。専用チャットルームの開設費用に、メッセージの文字化けの解消費用など。だが「少額だし、報酬がもらえるなら」と思い、その度に3000円から1万円を送金した。

 しかし結局、報酬は支払われなかった。詐欺だと気づいた時には、支払総額は20万円を超えていた。女性は「高い勉強料だったと思うしかないが、情けない」と嘆く。

 「サポー」を巡っては、サイトを通じて求職者から利用料名目で現金をだまし取ったとして、サイト運営者や相談者を装ってメッセージを送る「打ち子」ら男女26人が、警視庁と千葉県警の合同捜査本部に詐欺と窃盗容疑で逮捕された。全国の約8600人から19億円超をだまし取っていたとみられる。

 総務省によると、副業をする人は17年の約245万人から、22年には約305万人に増加。副業を巡るトラブルも相次いでおり、国民生活センターなどは注意を呼び掛けている。

 消費トラブルに詳しい佐久間大地弁護士(第一東京弁護士会)は「コロナ禍や物価上昇を背景に、生活に不安を抱き、副業をする人が増えている。スキルが必要ないのに、高収入をうたう場合は詐欺の可能性がある」と指摘している。【森田采花】

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