現職警察官の逮捕など不祥事が相次ぐ鹿児島県警が揺れています。情報漏洩の疑いで逮捕された鹿児島県警の元幹部、本田尚志容疑者。その本田容疑者に、事件の隠蔽に関与したと名指しされた、県警トップの野川本部長。市民の生活を守る警察内部で一体、何が起きているのでしょうか。
■本田容疑者が送った内部文書「闇を暴いてください」
本田容疑者から内部文書を受け取った人物が取材に応えてくれました。受け取った文書は10枚前後で、その中にはこれまでに指摘されているストーカー事件の他、新たに警察幹部による勤務手当の不正請求などが記載されていたことが分かりました。文書と合わせて「闇を暴いてください」という言葉が添えられていたということです。
サタデーステーションが訪ねた鹿児島では…
鹿児島県民(70代男性)
「鹿児島県警もかなり地に落ちた」
鹿児島県民(30代女性)
「子どもに対しても誇れるように職責を全うして欲しい」
警察庁や政府も言及する事態となっています。
本田容疑者の意見陳述書
「不都合な真実を隠蔽しようとする県警の姿勢に更に失望しました」
警察の内部資料を漏えいした疑いで逮捕された本田容疑者。3月に定年退職した鹿児島県警の元幹部です。どんな人物だったのか。私たちは既に退職した署長経験者に話を聞くことができました。
退職した署長経験者
「静かだけど仕事をきちんとこなすし、部下からも慕われていた人。覚悟は持っていたんだろう」
事件が大々的に報じられるキッカケになったのは…
仁科健吾アナウンサー
「本田容疑者は、こちらの簡易裁判所で野川本部長が犯罪行為を隠蔽しようとしたことを明らかにしました」
勾留されている理由の開示を求めた本田容疑者。裁判所で述べた意見には、内部告発とも言える内容がありました。その発言は異例だったと福岡県警本部長などを歴任した田村正博教授は言います。
京都産業大学・田村正博教授(元福岡県警本部長)
「拘束されてる被疑者側の権利として、どういう理由に基づいて自分が勾留されているかを裁判所に対して開示を求める。ただ今回の場合は、その場(開示請求)を通じて自分の見解を明らかにしたということが普通ではない」
サタデーステーションは、本田容疑者の「意見陳述」に注目しました。
「本部長ひとことお願いします。隠ぺいされたんですか」
隠蔽しようとしたと名指しされたのは、鹿児島県警トップの野川明輝本部長。本田容疑者は、二つの「警察官の不祥事」に触れています。一つは、去年12月に起きたトイレでの盗撮事件。「野川本部長は早期に捜査を進めなかった」と主張。もう一つは、一般市民から提供を受けた個人情報などを悪用した、ストーカー事案。事件は公表されなかったと言います。
本田容疑者は、背景をこのように推察しています。
本田容疑者の意見陳述書
「警察の不祥事が相次いでいた時期だったため本部長としては新たな不祥事が出ることを恐れたのだと思います」
鹿児島県警では、警察官が逮捕される事件が立て続けに起きていて、去年3月に麻薬特例法違反の疑いで巡査が、10月には未成年との強制性交の疑いで巡査長が逮捕されるなど、野川本部長が就任して以降、不祥事が6件起きています。信頼が揺らぐ事態。本部長が理由に上げたのは、コロナでした。
野川鹿児島県警本部長
「コロナ禍などににおける社会情勢の変化を受けて/人間関係が希薄になったことなどにより、これまで講じてきた対策が浸透しきれず、また、非違事案の兆しを組織として把握できていなかったことが問題であると考えている」
鹿児島県民(30代女性)
「一つの原因かもしれないけど、それをコロナのせいにするのはちょっと違うのかなと」
実際、本部長は不祥事が出ることを恐れるものなのでしょうか。
京都産業大学・田村正博教授(元福岡県警本部長)
「もちろん(不祥事が)出れば色んな批判はされますが、それが警察本部長の大きな責任だ、だからマイナスだとはならないですよね。(不祥事を)無くすという発想ではなく、起きたらどう対処するか、そこが問われる」
6月7日、当の野川本部長は…
野川鹿児島県警本部長
「被疑者が勾留の理由開示の中で述べた二つの事案については、いずれについても必要な対応がとられておりまして、それらについて私が隠蔽の意図を持って指示を行ったということは一切ございません」
トイレでの盗撮事件は、最終的に先月警察官を逮捕。一般市民の個人情報を悪用したストーカー事案は、被害女性が事件化を求めなかったことから捜査の対象となった警察官を本部長訓戒の処分とされ、女性の意向で事件は公表されませんでした。
■ノンキャリアの「たたき上げ」階級を上り詰めた本田容疑者
本田容疑者は、叩き上げながら3つの警察署で署長を務め、「警視正」の役職まで上り詰めた前生活安全部長。異例の昇進を続けていたと、すでに退職した署長経験者は言います。
退職した署長経験者
「2回、警察庁に行っている。優秀じゃないと東京へ行けない」
京都産業大学 田村正博教授(元福岡県警本部長)
「巡査から巡査部長、警部補、警部、と昇進試験を若い時に合格して警視になって、さらに警視正になっていかれたわけですから、 地元で相当な実績も上げられ、評価もされてきたんだと思います」
一方、野川本部長は東大法学部を出た、いわゆるキャリア組。本部長というのは絶対的な存在だと署長経験者は言います。
退職した署長経験者
「我々地元の者にとって絶対に従わないといけないと警察学校の頃から叩き込まれてきた存在。そこに反抗するというのは覚悟がないとできないでしょう」
正義を貫いたと見える一方で、公表を望んでいないストーカー事件の被害女性の名前や住所など、情報を流出させたことについては許されないことだと指摘します。こうした不祥事は、国にも対策を迫る事態となりました。今後、警察庁は鹿児島県警に対し、監察を行っていくとしています。
◇◇◇
高島彩キャスター)
これまでの経緯を時系列で整理していきます。
板倉朋希アナウンサー)
去年3月から鹿児島県警では不祥事が相次いでいます。去年12月には、女子トイレの盗撮事件が起きていまして、本田容疑者の意見陳述によりますと、本田容疑者が野川本部長に捜査を促しましたが、本部長は「最後のチャンスをやろう」「泳がせよう」と話したということです。もう1つ注目は、時期は不明なんですけれども、巡回連絡簿を悪用したストーカー事件が起きていまして、今年3月、本田容疑者は定年退職したあと、このストーカー事件に関する内部文書を北海道在住の記者に漏らしたとして国家公務員法違反の疑いで逮捕されました。そして、本田容疑者の定年退職後も県警の不祥事が相次いでいるんですが、去年の12月に発生した女子トイレの盗撮事件をめぐっては、そこから半年がたった先月5月に巡査部長が逮捕されるに至っています。盗撮事件とストーカー事件に関して、本田容疑者は、裁判所に出廷して鹿児島県警の隠蔽を指摘しました。この指摘に対して鹿児島県警の野川本部長は7日に取材に答え、「隠蔽の意図を持って指示を行ったことは一切ない」と否定しています。
高島彩キャスター)
去年12月に起きた女子トイレ盗撮事件。これが今年3月に情報漏えいした後に、巡査部長が逮捕されたという流れが見て取れるわけですが、柳澤さんはこの事件をどうご覧になっていますか?
ジャーナリスト 柳澤秀夫氏)
前代未聞の事件ですね。警察庁が行う「監察」にポイントがあると思うんですが、監察というのは、警察の中の警察。警察の不祥事、事実関係を調べるところなんですけど、これは身内の不祥事ですから、本来であれば警察の外の第三者機関が事実関係を客観・公平性をもって調べるというのが筋じゃないかなと思います。
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