名古屋芸術大(愛知県北名古屋市)の来住尚彦学長(63)からセクハラを受けたと複数の女子学生が訴えている問題を題材に、同大の学生が大学構内で開催しているアート展覧会を巡り、大学側が報道機関の取材を拒否していることが明らかになった。大学側は「施設管理権」を根拠に「取材目的で構内に入ることは断っている」と説明しているが、識者からは「憲法21条で保障している表現の自由の侵害だ」と批判の声が上がっている。【川瀬慎一朗】
展覧会は、同大で現代アートを学ぶ学生が企画・主催。女子学生が来住学長からのセクハラ被害を訴えている問題を受け、大学側の対応への疑問や不満を芸術作品として表現している。学内のギャラリーで5月31日から6月5日まで開催。入場無料で自由に一般閲覧でき、大学もホームページ上に日程を告知し「ぜひお越しください」と来場を呼びかけている。
しかし、関係者によると、毎日新聞が展覧会の内容を記事化した後の今月4日に大学を訪れたフリージャーナリストに対し、大学広報部は「(今回の展覧会の)取材はNG」と通告していたことが判明。毎日新聞が大学側に事実関係を確認したところ、「施設管理権は大学側にあり、(今回の展覧会の)取材目的で構内に入ることは断っている。出展している学生に話を聞くこともお断りしている」と回答。なぜ取材目的では断っているのかを尋ねると「お答えは差し控える」と述べるにとどめた。
関係者によると、フリージャーナリストから大学側の対応を知らされた展覧会を主催した学生が、大学広報部に理由を尋ねると、担当者は「大学を取り巻く内容がメディアに露出することは大学の本意ではなく、記事になることは避けたい」と説明。さらに学生が「展覧会のテーマや内容によって大学側が取材の可否を判断するのか」と追及すると、広報部の担当者は「そうですね」と答えたという。学生の一人は取材に「今回前例ができ、今後学生が表現するのを萎縮してしまうのではないか」と懸念する。
識者「表現の自由を傷つける重大な問題」↵
大学側の対応を専門家はどう見るのか。
表現の自由に詳しい田島泰彦・元上智大教授(憲法・メディア法)は「大学にとって都合が悪いからと言って、学生が取材を受ける権利を妨げることは民主主義の観点から、表現の自由や学問の自由を傷つける重大な問題だ。施設管理者と言えど不当な権利侵害は許されない」とし、「学生だけの自由や権利の問題ではなく、報道機関としての役割そのものも不当に侵害する意味を持つ問題だ」と指摘している。
情報公開市民センター理事長の新海聡弁護士は「オープンスペースでの取材を許可制にすること自体驚きで、表現の自由への規制だ」と指摘。大学は社会に開かれ、文化を醸成する役割があるとして「できるだけオープンにすべきで、大学の持つパブリックフォーラムとしての意義を当局が理解していないことにあきれる。芸術という表現の自由の担い手を養成する大学自体の理解が無くては、学生による表現の自由への理解が遅れてしまう」と批判している。
あいちトリエンナーレ2019の企画展「表現の不自由展・その後」の展示中止を巡って不自由展実行委員会が再開を求めた仮処分の弁護団長を務めた中谷雄二弁護士は「気に入らないから取材を拒否するというのは表現の自由の侵害だ」と批判。また、一般閲覧は認める一方で報道機関の取材を拒否していることについて「施設管理権の乱用。学校教育法で定める私立大は公的性格を持ち、憲法21条の表現の自由を最大限保障する義務が存在する」と強調した。
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