収穫期を迎えている南房総特産のビワなどの果実の汁を吸って大きな被害を与えかねないカメムシが、関東以西を中心に広域で大量発生している。千葉県は5月10日、10年ぶりに注意報を出した。なぜ今年増えているのか。県暖地園芸研究所(館山市)所長の大谷徹さん(57)と同研究所で「果樹カメムシ類」の研究に取り組む角田ひかりさん(30)に聞いた。【松尾知典】
――なぜカメムシが大量発生しているのですか。
◆角田さん 果樹カメムシ類は主にチャバネアオカメムシ、ツヤアオカメムシ、クサギカメムシの3種で、エサとするヒノキやスギの球果の量などによって増えたり減ったりします。昨夏は球果が豊作でした。また親と子のエサは同じで、親の量が多いとエサの競合が激しくなり、子が減ることがあります。昨年の4~6月はカメムシの発生量がとても少なかったのですが、子にとってはエサの競合相手である親が少なかったことも、今年カメムシが増えたことにつながったとみられます。
――球果が豊作とは、花粉も多かったということでしょうか。
◆大谷さん 県では花粉を出す雄花の生産量を調べていますが、雄花が多ければ、並行して球果ができる雌花も多くなると言えます。花粉が飛ぶのは2~5月ごろですが、球果が多ければ、花粉も多くなります。
――カメムシの寿命は。
◆大谷さん 寿命は基本的に1年です。夏に生まれ、越冬した後、サクラやクワ、ビワの実などに飛んで汁を吸い、スギやヒノキに還るという生活サイクルです。
――暖冬も大量発生の要因ですか。
◆角田さん 冬に気温が高いとカメムシの生存率も高くなり、越冬できる個体数が増えます。調査でも裏付けられており、越冬しやすい気象条件だったと言えます。
――3種は臭いに違いがあるのですか。
◆角田さん それぞれ微妙に違い、あくまで主観ですが、体の大きいツヤアオカメムシが一番、刺激が強い臭いだと思います。
◆大谷さん ツヤアオカメムシの体長は14~17ミリ、チャバネアオカメムシの体長は10~12ミリと言われています。
――研究所ではカメムシを何匹ぐらい飼っているんですか。
◆角田さん 試験用で、多い時ですと室内だけで500匹以上飼育しています。エサは生の落花生やヤマモモの枝を用いています。カメムシにとって落花生は増殖のため、ヤマモモの枝は生命維持のための給水源として必要なものです。
――農家はどんな対策を取ったらよいでしょうか。
◆大谷さん 農家には既にさまざまな対策を取ってもらっていますが、カメムシを見かけたら、対象の殺虫剤を使うようにお願いしています。
――家庭内にカメムシが入ってきた時は、どう対処したらよいですか。
◆大谷さん カメムシは攻撃されたと思うと刺激臭を出すので、ティッシュなどでそっとすくって外に出すとよいです。カメムシを凍らせるスプレーなども市販されており、そうした家庭用殺虫剤で対処するのもお勧めです。
大谷徹(おおたに・とおる)さん
1992年、県庁に入庁。水稲に被害を与える斑点米カメムシ類など病害虫に関する業務に20年近く携わる。
角田ひかり(つのだ・ひかり)さん
2017年、県庁に入庁。23年から県暖地園芸研究所・生産環境研究室の研究員。カーネーションやレタスの害虫対策も研究。
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