これから降雨が多くなり、本格的な出水期を迎えます。先月27日には、気象庁が今年初めて線状降水帯の予測情報を発表しました。正確な予測が難しいとされる線状降水帯ですが、少しずつ予測情報が改善しています。精度向上に向けた舞台裏を取材すると、様々な角度から線状降水帯の“源流”を捉えようと奮闘する研究者たちの姿がありました。

■新運用開始…線状降水帯予測のカギは水蒸気

 台風1号に刺激され活発化した梅雨前線が列島を通過し、先月28日は各地で5月の観測史上最大の雨となりました。気象庁はその前日、今年初となる線状降水帯の予測情報を発表。これまでは地方ごとに出されていましたが、今回から府県単位での発表となりました。

気象庁 線状降水帯技術開発調整係 三浦涼大さん
「この呼びかけがあることで大雨に対する危機感を持っていただくというのが重要」

 そもそも線状降水帯は、海から水蒸気を多く含む暖かい空気が運ばれ、積乱雲が次々と発生し連なることで局地的な大雨をもたらします。カギとなるのは海から流れ込む水蒸気。この水蒸気を正確に捉えることで、線状降水帯の発生が予測できるようになるのです。

 サンデーLIVE!!では、陸・海・空からの水蒸気観測の最前線を取材。線状降水帯予測の精度向上に向けた秘策とは…。

■「陸から観測」気象界で大活躍の“犬”とは?

 「雲研究者」として知られる気象庁の研究官、荒木健太郎さん。地上から水蒸気を捉える、ある機器の研究に10年以上取り組んできました。

気象庁 気象研究所 荒木健太郎主任研究官
「こちらが地上マイクロ波放射計です。何に見えます?頭があって足が4本あって、尻尾がピンと立っている犬に見えてきませんか?」

 気象関係者の間でも“犬”とよばれているという「地上マイクロ波放射計」です。

気象庁 気象研究所 荒木健太郎主任研究官
「大気中の水蒸気もしくは雲、それから酸素とか、そういったものから発せらている微弱な電磁波、マイクロ波を受信する機械なんですね」

 この地上マイクロ波放射計を使うことで、従来の観測と比べ高頻度かつ高精度に大気の状態が分かるようになりました。気象庁は今年3月から、地上マイクロ波放射計で観測されたデータを日々の予報システムに活用しています。

気象庁 気象研究所 荒木健太郎主任研究官
「近年の線状降水帯への対策が必要だということで注目していただいて、実際各地で“犬”が活躍していると思うと本当に感慨深いですね」

■「海から観測」気象庁の新観測船が太平洋へ

 陸上での水蒸気の観測網が構築されている一方で、水蒸気の発生源である海上の観測データは少なく、実態の把握には至っていません。そこで…。

取材ディレクター 山田寛明
「見えてきました、あちらが気象庁の新しい観測船『凌風丸』です。ゆっくりと東京・お台場を出港していきます」

 およそ30年ぶりに新しく竣工(しゅんこう)した気象観測船「凌風丸」。先月29日、運用開始後初めて海上の水蒸気を観測するため、九州地方に向かいました。

気象庁 大気海洋部 長谷川拓也調査官
「(線状降水帯の)発生の種となる海の上の水蒸気を捉え、天気予報モデルに利用することで線状降水帯の予測精度の向上に貢献できる」

 観測で重要な役割を担うのが、衛星からの電波を受信する「GNSS」とよばれるシステム。衛星から発せられる電波は、大気中に水蒸気があると到達するまでにわずかな遅れが生じます。その遅れを計算することで、水蒸気の量が分かるのです。

■「空から観測」飛行機で水蒸気を“狙い撃ち”

 さらに近年は、その海上の水蒸気をピンポイントで観測しようという研究も進められています。

名古屋大学・横浜国立大学 坪木和久教授
「変動の激しいものについては機動的に、つまり短時間で観測をする必要があるわけです」

 名古屋大学と横浜国立大学で教授を務める坪木和久さんが取り組んでいるのは、飛行機を使った観測です。上空から観測機器を投下し、気温や風速などのデータを集め、水蒸気量を割り出します。

 2022年には、「大気の川」とよばれる大量の水蒸気の流れ込みを日本で初めて上空から観測。今年の夏にも観測を行う予定で、今後、線状降水帯の予測精度をさらに上げることが期待されています。

名古屋大学・横浜国立大学 坪木和久教授
「より正確に、より早い段階から予測をするというためには、海上・遠方からの観測、これが不可欠になります」

■「宇宙から観測」JAXA“世界初衛星”打ち上げへ

 こうした陸海空からの観測だけでなく、将来、気象予測の“切り札”となりうる国家プロジェクトが立ち上がっています。JAXAが進めている「降水レーダ衛星プロジェクト」です。

JAXA 降水レーダ衛星プロジェクトチーム プロジェクトマネージャ 古川欣司さん
「線状降水帯が発達する段階とか、雨の降っている所の上空を衛星が通過して観測することができれば、線状降水帯で降っている雨の3次元構造などが提供できます」

 雲を3次元スキャンするように観測することで、雨の強さなどを立体的に把握することができるといいます。JAXAでは、雨粒の落下速度が観測できる世界初の性能を持つ新たな衛星を開発中で、2028年度の打ち上げを目指しています。

JAXA 降水レーダ衛星プロジェクトチーム プロジェクトマネージャ 古川欣司さん
「地道にいろんなデータを組み合わせることによって、(線状降水帯の)メカニズムをどんどん正確なものにしていくことが大事」

■新衛星に新スパコン…気象庁が目指す新情報

 気象庁では、線状降水帯予測の精度向上に向け、新しい気象衛星「ひまわり10号」の整備による水蒸気観測の強化や、強化したスーパーコンピューターを活用した予測技術の開発を進めています。これらにより、線状降水帯の半日前からの予測を、2029年には現在の都道府県単位から市町村単位にまで絞り込むことを目指しています。

 さらに、台風の進路予報の精度が向上し、現在の予報円よりも小さくなるとされています。これにより、範囲を絞った交通機関の計画運休や事前の避難などが可能になるということです。

(「サンデーLIVE!!」2024年6月2日放送分より)

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