国内唯一の監獄博物館として知られる北海道網走市の「博物館網走監獄」は、北海道東部の観光スポットで屈指の人気を誇る。新型コロナウイルス禍で落ち込んだ入館者数は、2022年度以降は20万人台に回復した。一方で、過疎地域特有の課題に直面しており、関係者は今後に危機感を募らせている。
網走監獄は1890(明治23)年に釧路監獄署網走囚徒外役所として設置されたことに端を発する。凶悪犯や政治犯を収容し、囚人は道路開削に従事するなど北海道の開拓に貢献した。
かつての建物を移築、展示しているのが1983年に開館した博物館だ。2016年には「五翼放射状平屋舎房(ごよくほうしゃじょうひらやしゃぼう)」と呼ばれる「舎房及び中央見張所」など8棟が国の重要文化財に指定された。展示ではその歴史や囚人の生活、開拓への貢献ぶりなどを今に伝える。
大型連休直前の平日に訪れると、国内外から訪れた入館者が貴重な建築物をじっくりと観察し、記念撮影などを楽しんでいた。
細やかな仕掛けも随所にある。名物の一つ、「監獄食堂」では、現在の網走刑務所で提供されている受刑者向けの食事を再現した「監獄食」(950円)が人気で、年間約1万食が売れる。麦飯、みそ汁、焼き魚、煮物などがセットだ。7月6日の開館記念日には受刑者の人気メニューを提供している。
今春からはVR(仮想現実)空間で全景を上空から眺めたり、多言語対応の解説を聞きながら内部を巡ったりできるゴーグルを館内に設置。今野久代副館長は「特別な体験を提供していかなければならない。施設の充実を図り、入館者を増やしたい」と語る。
そうした努力もあって、入館者数はコロナ禍から持ち直している。19年度に26万人を超えた入館者数はコロナ禍の20年度から2年間は11万~13万人程度まで落ち込んだが、22年度は20万3426人、23年度は22万2629人を記録。網走監獄ではインバウンド(訪日客)の誘客が、今後の鍵を握るとみている。
ただ、網走市や近隣にインバウンドを受け入れる環境が整っていないことが誘客の障壁になっている。市内では人口減少にコロナ禍も重なって飲食店が減り、北海道の魅力でもある食事面で観光客の収容力が低下したという。今野副館長が台湾や香港で営業活動をした際、「多くの観光客を受け入れられる昼食の場」を求められて答えに窮してしまうこともあった。
昨年は苦肉の策として、博物館内に団体客の食事会場を特設し、海鮮丼などを振る舞った。だが、応急的な対応を持続させるのは難しく、すぐに新たな飲食店ができるわけでもない。
昼食問題を解決する糸口を見つけなければ、世界自然遺産「知床」など周辺を訪れたインバウンドが網走を通過してしまう恐れがある。今野副館長は「市内には流氷観光砕氷船などもある。食事や宿泊の施設と連携して観光客を受け入れなければいけないが、かなり課題は多い」と頭を悩ませている。【谷口拓未】
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