2025年大阪・関西万博の開幕まで1年を切り、遅れが指摘される海外パビリオンの建設も佳境を迎えている。万博を運営する日本国際博覧会協会(万博協会)によると、参加国が自前で建てる「タイプA」は23日現在、53カ国中29カ国が着工した。建設業界でも残業規制が強化された「2024年問題」などの影響で、大手ゼネコンが軒並み受注を見合わせる中、異色ともいえる建設機械レンタル業者が3館の工事を請け負っている。なぜなのか。
大阪市中央区に本社を置く西尾レントオール(西尾公志社長)はイタリア、インドネシア、フィリピンの3カ国からパビリオンの建設工事を受注した。いずれもゴールデンウイーク明けに着工し、工事が進む。
中でもイタリア館は、14世紀に始まった文芸復興「ルネサンス」の現代版を表現。オペラなどを上演する劇場やイタリア式庭園が設けられるほか、バチカン美術館が所蔵する巨匠カラバッジョの代表作「キリストの埋葬」の出展が決まるなど、注目度も高い。
秘密は独自開発の「木造モジュール」
同社の主要事業は建設機械のレンタルだが、次世代を見据えて、規格が一律の木造の仮設建物「木造モジュール」の開発に取り組み、20年に事業化。万博では海外パビリオン3館に加え、万博協会の営業施設と案内所、日本企業が出展するパビリオンの付属施設の計6館でこのモジュールが採用された。
仮設建物でも大規模なものは鉄骨が一般的だが、同社の木造モジュールは、富山県の会社が開発した木材と金属を併用するハイブリッド工法を活用し、十分な強度と柱のない広い空間の実現を可能にした。規格化されたモジュールを自在に組み合わせることで、工期短縮やコスト抑制につながるほか、転用しやすく環境にも優しいため、万博が目指す持続可能な開発目標(SDGs)の達成にも資するという。
パビリオン建設のマネジメントを担う西尾レントオールの諏訪裕一郎・木造モジュール課長は「鉄骨に比べて軽量で基礎部分の負担が少なく、(会場の人工島)夢洲(ゆめしま)のように軟弱な地盤での建設に適していることも評価されたのではないか」と話す。
「材料や展示物を本国から持ち込みたい」「万博後も材料を再利用できるようにしたい」――。「万博の華」とも称される海外パビリオンは参加国がその国らしさを表現し、独創的なデザインを競う。そのため、諏訪さんのもとには各国からさまざまな要望が寄せられる。「日本の安全基準を満たしながら、最大限(参加国の)希望をかなえるにはどうすればいいか」。諏訪さんらは、本国とのやり取りを密にして関係者と折衝を重ねている。
会場では海外パビリオン以外の建物の工事も並行して進む。夢洲は海に囲まれた人工島でアクセスが限られるため、物流面での課題も指摘されている。諏訪さんらは工事スケジュールに合わせて必要な材料をスムーズに供給できるよう、メーカーと調整。会場近くにある同社の拠点に資材を仮置きして対応しているという。
9月末には会場の大屋根「リング」が一つにつながる予定だ。万博協会は大型重機を使ったパビリオン工事の期限を10月中旬に設定。10月以降は会場内の道路の舗装工事が本格化し、工事車両が集中するためだ。「業者間で資材搬入の時間帯を調整する必要があるかもしれない」。諏訪さんも今から混乱を懸念するが、「壁を乗り越えて理想のパビリオンを完成させ、各国政府と笑顔で握手できる日を迎えたい」と前を向く。万博協会や行政には「建設が開幕に間に合うよう、時々の課題を集約して、融通を図ってほしい」と求めた。
アンケに3カ国が工事「間に合わない」
毎日新聞は3~4月、参加国が自前で建設する「タイプA」のパビリオンを予定する国のうち、国名が判明している50カ国の万博政府代表事務局や大使館などにアンケートを送付、17カ国から回答を得た。うち3カ国は万博協会が提示した工事期限に「間に合わない」との見通しを示した。
万博協会は大型重機を使ったパビリオン工事の期限を10月中旬に設定、各国に具体的な建設計画を立てるよう求めている。アンケートでは主に、この期限に間に合うかを尋ねた。
その結果、「間に合わない」との趣旨の回答を寄せたのは、インドネシア、ルーマニア、スウェーデン。スウェーデンは北欧5カ国で一つのパビリオンを建設する。インドネシアとスウェーデンの担当者はいずれも工事の完了時期が「12月」になると回答した。
自由記述では、建設時の課題や要望を尋ねた。インドネシアは、行政や万博協会に「素早い建築の許認可と、建設期間の延長を求めたい」と記述。ルーマニアは「最大の課題は、こちらの予算内で受けてくれる日本企業を見つけることだった。(調査時点での)具体的な完成時期は示せない」とした。
一方、期限に「間に合う」と回答したのは、8カ国(英国、ベルギー、オランダ、スイス、カナダ、ポルトガル、スペイン、タイ)。スイスは自由記述で「地元建設業者を見つけ、必要な許認可を得た後は、建設資材などの物流と現場へのアクセスが共通の課題になる」と指摘。スペインからは「資材を日本に持ち込む際の手続きに便宜を図ってほしい」との要望が寄せられた。
ドイツは10月中旬の期限達成可否には触れず、「工事が円滑に進むように主催者側と定期的に調整している」と回答した。
万博協会によると、タイプAのパビリオンを巡っては、14カ国でいまだに建設業者が決まっておらず、これらの国には、協会が建設を代行する簡易型や他国・地域との共同入居型への移行を打診している。最終的な出展数は40カ国前後となる見通しだ。【高木香奈】
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。