福岡県警本部

 交通違反を巡る刑事裁判で無罪が確定したのに、免許取り消しの行政処分は撤回されない――。こうした「ねじれ」は、なぜ起こるのか。

 刑事処分と行政処分は、同じ捜査情報を基に判断されても、それぞれ独立した別の手続きだ。刑事裁判で無罪が確定しても、行政処分の効力は原則維持される。「ねじれ」を解消するには、処分された側が不服申し立てや行政訴訟を起こして争うことになる。

 具体的には①処分から3カ月以内に各都道府県の公安委員会に不服申し立て(審査請求)をする②処分から6カ月以内に取り消し訴訟を起こす③処分の無効確認訴訟を起こす――の3通りの方法がある。①と②には期間の制約があり、③は「重大かつ明白な違法性」の立証が必要で、よりハードルが高いとされる。訴訟では公安委が争う場合が大半で、判決まで一定の時間を要し、費用もかかるため、負担は大きい。

 29日に福岡地裁で判決を受けた福岡市の清掃業の男性(43)は、運転免許取り消し処分後に審査請求し、審査中に刑事裁判で無罪が確定したが、福岡県公安委は処分の撤回を認めなかった。男性は処分取り消しの民事訴訟を起こしたが、運転免許を失ったことで生活は暗転。20代から鉄筋工の仕事を続けてきたが、通勤や業務に支障が出始め、退職した。再就職先も見つからず、アルバイトで生活をつなぎ、収入は激減した。

 交通事故を巡る刑事裁判で無罪が確定した福岡市の女性会社員(45)は、運転免許取り消し処分の無効確認訴訟を起こし、福岡地裁と福岡高裁で相次ぎ勝訴。「処分は無効」とする判決が2023年10月に確定したが、免許を取り戻すまでに約6年間を要した。この間にトラック運転手の職を失い、収入が途絶えたことで家賃も払えなくなり、転居を余儀なくされた。

 同種の事案では、東京高裁も18年9月、道交法違反(酒気帯び運転)で無罪が確定した男性が運転免許取り消し処分の撤回を求めた訴訟で、請求通り、処分を取り消した。

 行政訴訟に詳しい福岡大法科大学院教授の木村道也弁護士(福岡県弁護士会)は「刑事処分と行政処分が異なる処分といっても、事実は一つしかない。公安委員会とは異なり、事実認定のプロが無罪と判断したことを尊重すべきだ。免許を失う影響は甚大で、お金も労力もかかる訴訟をさらに起こさなければならず、負担は大きい。無罪になったら処分を見直す仕組みにすべきだ」と訴える。【志村一也】

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