1966年に静岡県内で一家4人を殺害したとして強盗殺人などの罪で死刑が確定した袴田巌さん(88)の再審公判は22日、検察が改めて死刑を求刑した。袴田さんと交流があり、狭山事件で再審を求めている石川一雄さん(85)は「(死刑求刑に)とても怒りを覚えた。無罪を確信し一日千秋の思いで待っている。次は狭山だ」と語り、支援者らも憤りの声を上げた。
石川さんは63年5月、埼玉県狭山市内で女子高生が殺害された事件で逮捕。翌年1審で死刑判決がくだり東京拘置所の死刑囚監房に入った。その4年後に、同房に収監されたのが袴田さんだった。2審の無期懲役判決(74年)で石川さんが一般房に移るまでの約6年間、「イワちゃん」「カズちゃん」と呼び合う仲だった。
石川さんは94年に仮出所。2014年に袴田さんが法的には「死刑囚」のまま釈放されると、浜松市の袴田さん宅を訪れるなど交流を重ねた。深刻な拘禁症状が残る袴田さんだが、石川さんについては認識しているという。その様子を見守ってきた石川さんの妻早智子さん(77)は「ともに冤罪(えんざい)を闘ってきた2人。苦しみや怒りの中で心を通わせていたのでは」と推し量る。
袴田さんの再審を巡っては、検察の即時抗告を退けた東京高裁が唯一の物証とされる「5点の衣類」について、捜査機関による「捏造(ねつぞう)」の可能性に言及。再審公判でも弁護団は捏造の立証に傾注し、「『5点の衣類』は捏造の集大成」とまで論じ、「無罪」判決への自信を深めている。石川さんも「無罪獲得は当然のこと」と言う。
「部落差別が生んだ冤罪事件」と訴える石川さんの第3次再審請求審(東京高裁)は、06年5月の申し立てから間もなく18年が経過する。物証とされる、石川さん宅から見つかった万年筆について、弁護団は「被害者のものとは言えない」とする鑑定書などを新証拠として提出したが、証拠調べは見通せない。それだけに石川さんは「袴田さんの裁判で捏造が満天下に明らかになった。狭山事件も同じ構造。光が見えてきた」と期待を寄せる。
早智子さんの言葉は悲痛だ。「巌さん88歳、一雄も85歳。長い裁判の闘いで、皆高齢になっていく。いつどうなってもおかしくない。一日も早く再審を開始してもらいたい」
石川さんを支援してきた部落解放同盟の片岡明幸県連委員長(75)は「東京高裁が『捏造』とまで言及して始まった再審というのに、死刑を求刑した検察は許せない。裁判所には速やかに無罪判決を出してもらいたい。袴田さんの次は石川さんだ」と話した。
袴田さん支援組織、石川さん救援へ
一方、袴田さんの再審開始の大きな原動力になったのが「5点の衣類」のみそ漬け実験。主導した「袴田巌さんを救援する清水・静岡市民の会」の山崎俊樹事務局長(70)は「私が初めて冤罪事件に接したのは狭山事件。今度は袴田さんの救援運動で得た経験と知識を生かし、石川さんを何としてでも無罪に導きたい」と語った。
石川さんの逮捕から61年目となる23日、東京・日比谷野外音楽堂で再審実現を求める市民集会が開かれる。【隈元浩彦】
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