講演で特殊詐欺などの被害に遭ってしまう心理の背景について「欲」だと語る佐々木栄二さん=秋田県大仙市で2024年4月26日、工藤哲撮影

 各地で後を絶たない特殊詐欺などの被害を防ごうと、元警視庁警視で秋田県大仙市在住の佐々木栄二さん(64)が市内で啓発活動を続けている。地元グループの集会などでの講演は約30回に上り、「具体的で分かりやすい」と好評だ。佐々木さんは「だまされたお金の多くは暴力団などの反社会的な犯罪組織に使われてしまう悔しい結果になっている。少しでも自分の話が聞き手の記憶に残れば」と語る。

 佐々木さんは熊本県出身。東京都内の大学を卒業後、1983年に警視庁に入庁。北沢署生活安全課長などを経て第7方面本部刑事・生活安全・組織犯罪対策担当管理官を務めて2021年春に退職した。その後は妻の出身地である大仙市に移住し、市生活環境課・市民相談室の不当要求等対策指導員として市民の生活相談に応じている。

 「実際に実演したいと思います」

 佐々木さんは4月26日、同市の「北楢岡さわやかサークル」主催の講演会で、特殊詐欺の実行役が証拠を消すために利用するという水溶紙を、水が入った容器に浸し、実際に溶かしてみせた。あっという間に紙は溶けてなくなり、参加者から驚きの声が上がった。

 佐々木さんは、特殊詐欺グループについて「指示役の他に、被害者の家に電話をかける『かけ子』、被害者宅に現金やキャッシュカードを取りに行く『受け子』、だまし取ったカードを使ってATM(現金自動受払機)から現金を引き出す『出し子』の他、警官がいないかを見張る役などがいる」と説明。警察官として組織犯罪対策に関わった経験から「なかなか指示役をつかまえるのは難しいのが現状」と語った。

 秋田県警によると、2023年、県内の特殊詐欺認知件数は88件、被害総額は約5億400万円に上った。前年より22件多く、金額は4億円以上も増えて5倍近くに達した。

 講演で佐々木さんは県内の現状について「仮に受け子を自宅に向かわせようとすると、秋田の場合、タクシーやレンタカーを使う必要があり、足取りが残ってしまう。このため被害者をコンビニエンスストアや金融機関に向かわせる架空請求の手口が少なくない」と指摘。「東北には方言があり、会話のやりとりだとうそが見破られやすいので、被害者側からの連絡を待つ形にしている傾向がある」などと話した。

 佐々木さんによると、今後は被害者の家に受け子が出向くような形は減り、副業サイトやSNS(ネット交流サービス)などインターネットを使って被害者による振り込みを促したり、電子マネーを支払わせたりする手口がさらに増える可能性があるという。被害を防ぐため「寸劇なども交えながら、今後も多額の詐欺の抑止方法を啓発していきたい」と語る。【工藤哲】

特殊詐欺の被害防止を啓発する元警視庁警視の佐々木栄二さん=秋田県大仙市で2024年4月26日、工藤哲撮影

佐々木さんの講演の主なポイント

・特殊詐欺の実行役は証拠が残らないよう細心の注意を払い、朝から晩まで電話をかけ続けている。家族の人数や帰宅時間などを安易に口にせず、すぐ切ること。

・「認知件数」は警察が被害届を受理した件数なので、実際にはその数よりもさらに多く発生している。

・投資先の振込口座が個人名なら絶対に怪しいので注意が必要。

・不審なメールは「開かない」「クリックしない」「入力しない」を心がけてほしい。

・楽なもうけ話は絶対に1人で判断せず、友人や家族に相談を。

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