昔ながらの酸っぱい梅干しの味を守りたいと、梅の一大産地・紀州の梅干しメーカーが各地での製造所整備に向けたクラウドファンディング(CF)を実施している。食品衛生法の改正に伴い6月から漬物の販売に保健所の「営業許可」が必要になるためで、農家などが小規模にも梅干し作りを続けられる体制の構築を目指す。
リフォームに100万円……製造断念も
企画したのは和歌山県みなべ町で梅干しを製造販売する「うめひかり」の社長・山本将志郎さん(30)。「最近はハチミツを使った甘い梅干しが人気だが、梅本来の味が楽しめる梅干しを広めたい」と2019年の創業以来、塩とシソのみで漬ける製法にこだわってきた。
これまで漬物の製造は各地の条例に基づく届け出制が多かったが、法改正に伴い21年6月から保健所の営業許可が必要になった。国際基準に沿った衛生管理が義務づけられ、5月末まで3年間の経過措置が取られている。
みなべ町周辺は梅の高級品種「南高梅」の産地として知られ、大規模な梅干しメーカーが多い。一方、自宅などで細々と製造し地元の産直市場などで販売してきた人もおり、水道設備の整備など衛生基準を満たすようリフォームするには100万円程度かかるため、6月以降は製造を断念するという話も聞いた。
山本さんも23年3月に製造所を新設し、営業許可を得たが「最低限必要な設備、道具はどういうものかなど参考になる情報がなかった」と振り返る。
昔ながらの梅干しを次世代に
山本さんは明治時代から続く梅農家に生まれた。学生時代は製薬会社への就職を目指し北海道大で研究に打ち込んだが、梅農家が高齢化している状況に危機感を持つようになった。実家の農園を継いだ兄の「どの梅干しも甘い調味液で均一な味になってしまい、栽培にやりがいがない」という一言に、梅干し作りに携わりたいという思いを強くした。
試作を重ね、地元に戻ってからは祖母の家の一室を利用し従業員と製造を続けてきた。自転車で全国各地の青果店や酒屋などの商店に飛び込み営業し、北海道から沖縄と計約200店舗まで販路を広げた。
山本さんはCFで集めた資金を使って、全国各地で同様の問題を抱える人たちにノウハウの提供をしていきたいとし、神奈川県小田原市▽愛知県常滑市▽同県新城市――にある三つの梅農家・事業所への支援が決まっている。「新しく梅干し作りに挑戦したいがどうすればいいか」といった問い合わせも相次いでおり、支援先は今後も増やす見込みだ。
「梅は全国各地で生産され、少数の農家によって昔ながらの梅干しが受け継がれてきた。食の豊かさが失われてしまうのは残念なこと。それぞれの地域の味が継承されるよう力になりたい」と話した。
CFは運営サイト「キャンプファイヤー」で6月1日まで。【宮川佐知子】
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