「DV等支援措置」の申請書のサンプル=大阪市北区で2024年5月8日、梅田麻衣子撮影

 DVやストーカー、児童虐待の被害者らを保護する「DV等支援措置」の利用が増えている。住民票などの閲覧や交付を制限する制度だが、手続き時の負担が大きいとする課題も残っている。使いやすい制度にしようと、当事者の支援団体では新たな取り組みを始めている。

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対象は10年で3倍近く

DV等支援措置の対象件数

 総務省によると、支援措置の対象は2023年12月時点で8万3916件。虐待やDVが社会問題化する中、10年前の3倍近くに上っている。

 支援措置を利用するには自治体の窓口に申請するが、事前に警察や児童相談所などの専門機関に被害を確認してもらう必要がある。申請を受け付けた自治体側は専門機関の意見を聞き取ったうえで、住民基本台帳や住民票、戸籍の閲覧・交付を制限するかを判断する。利用期間は1年で、更新する場合は被害者が再び専門機関に相談しなければならない。

 幼い頃に虐待を受けていた30代の女性は更新手続きで当時の記憶がよみがえる。「過去の被害は変わらないのだから、毎年の更新をなくしてもらえないか」と訴える。

「アフターケア相談所ゆずりは」所長の高橋亜美さん=提供写真

 「行政や警察などによる聞き取りでフラッシュバックに苦しみ、支援措置の申請を諦める人もいる」。そう語るのは、児童養護施設や里親家庭を巣立った子どもや若者を支える「アフターケア相談所ゆずりは」(東京都国分寺市)所長の高橋亜美さんだ。

 高橋さんによると、当事者が手続きを進める中で「今、被害を受けているのか」と詰問されたり、「男性なのに」と性別に絡む発言を受けたりすることで、2次被害が起きているという。

 被害の認定は、被害者支援を担う民間団体や児童福祉施設の運営法人などでも認められているが、高橋さんは「総務省が各自治体に通知しても浸透せず、行政の窓口では『まず警察に行って』と言われるケースが多い」と指摘する。

民間団体が「被害承認」

アフターケア相談所ゆずりはが作成したDV等支援措置のガイドブック=2024年5月1日午後7時45分、宮本翔平撮影

 高橋さんらは、11年の開所から行政の窓口に同行するなどして約70人の支援措置の申請をサポートしてきた。うち約50人は高橋さんらのヒアリングを通じて「被害承認書」を作り、支援措置が認められている。被害者への寄り添いやケアを専門とする団体が担うことで、申請時の負担を軽減できるメリットがあるという。

 ゆずりはでは、被害者への聞き取りや申請までの流れを解説したガイドブックを作成し、近くインターネットで公開する。高橋さんは「民間団体の承認で支援措置が認められる事例を積み上げていければ、自治体側にも浸透するはず。当事者の負担を減らし、より使いやすい制度になってほしい」と話す。【宮本翔平】

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