「失敗は成長のもとです」と話すピアニストの河村尚子(江原和雄撮影)

ドイツ在住のピアニスト、河村尚子がデビューから20周年を迎え、今年9月にサントリーホールでリサイタルを開く。そして6月にはデビュー20周年記念アルバムを録音する。河村は「20年はこんなに早く過ぎてしまうのかと思いますが、いろいろなものが詰まっている20年です」と話す。復活祭の休みでしばらく日本に滞在していたが、4月10日に王子ホールでフランスもののリサイタルを行い、翌日、ドイツに帰国した。

失敗をしたから今の私がある

河村は父親の仕事の関係で5歳からドイツ・デュッセルドルフに住み、ピアノを始めた。ハノーファー音楽演劇大学でウラジーミル・クライネフに師事。2006年、ミュンヘン国際音楽コンクール2位、7年、クララ・ハスキル国際ピアノコンクール1位。第51回(19年度)サントリー音楽賞を受賞した。現在、ドイツ・エッセンのフォルクバング芸術大学教授を務めている。

日本デビューは04年11月、22歳のとき。その前年、チューリヒで開かれたゲザ・アンダ・コンクールに参加、審査員をしていたロシアの巨匠指揮者ウラディーミル・フェドセーエフが、首席客演指揮者を務めていた東京フィルの定期演奏会のソリストに起用してくれた。

「えーと驚きました。私は日本の音楽界とまったくつながりがありませんでしたから」とドイツ育ちの川村。残念ながらフェドセーエフが気管支炎にかかってしまい、指揮は小林研一郎に代わってしまったが。

「成長する道のりは長かったと思います。20年たつと楽譜の読み方が変わるなど演奏は大きく変わりました。20年の間に失敗をたくさんしました。でも失敗をたくさんしたから今の私があります。失敗から学んで次のステップに行きます。失敗は成長のもとなのです。ずっと弾き続けることが練習になります。時には楽器から離れて頭を切り替え、想像力を養い、コンディションを作っていくのが大事です。そしていろいろな方に助けられました。周りの方にサポートしていただき、ここまで来られました」と振り返った。

サントリーホールで初のリサイタル

リサイタルのプログラムはバッハ/ブゾーニの「シャコンヌ」で始まり、河村が岸野末利加に委嘱した「単彩の庭Ⅸ」の初演、プロコフィエフのピアノ・ソナタ第7番「戦争ソナタ」までが前半。後半にはショパンの即興曲第3番とピアノ・ソナタ第3番。

「プログラムはこれまで積み重ねてきたレパートリーとこれからの音楽です。ショパンのソナタ第3番は10代のころから勉強し、コンクールで弾くなどたくさん思い入れがある曲なので、ぜひ入れたかった。『シャコンヌ』は東日本大震災があった11年に亡くなった恩師のクライネフ先生への追悼の意味もあり、祈りを込めて1曲目にしました。岸野さんはケルンに住み、ヨーロッパで活躍している京都出身の作曲家です。私は邦人作曲家か女性作曲家をプログラムに入れるプロジェクトを続けています」

6月3~5日にはデビュー20周年記念アルバムをドイツ・ノイマルクトのホール、ライトシュターデルで録音し、ソニー・クラシカルから発売する。ショパンの練習曲第8番や即興曲第3番、バッハ/ペトリの「羊は安らかに草をはみ」スカルラッティ「ソナタK27」や「熊蜂は飛ぶ」などこれまで録音していなかった小品集。

「プロデューサーや録音技師など最初の録音から変わりません。チームワークがうまくいっているのです。20周年なので愛奏してきた20曲を収録します。ジュエリーボックスのような感じです。聴いた方に何かを感じてもらえる宝石箱にしたい。さまざまな国の曲があるので、ピアノのいろいろな音色を聴いてほしい」と話す。

3月13日にはオメル・メイール・べルバー指揮ウィーン交響楽団とブラームスのピアノ協奏曲第1番をサントリーホールで共演するなど、協奏曲ではサントリーホールとなじみ深いが、実はリサイタルは初めて。

「大きな空間でピアノの響きを聴いていただきたい。ピアノの音楽を通して安らかに、そして幸せな気持ちになってくれたらうれしいです」

リサイタルは9月30日、サントリーホール。記念ツアーを兵庫県立芸術文化センター、軽井沢大賀ホールなどで行う。(江原和雄)

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